この作品以降、彼の著作は「泣けるホラー」と称される。そのたび個人的には「ちょっと待って、梶尾作品ってSFじゃないの?」と言いたくなる。本書も確かに死者が蘇るという点ではホラーかもしれないが、死者が蘇ることにはSFらしい理由付けがされており、ホラーと言い切れない。元々、梶尾真治はデビュー作からアシモフやクラークといったハードSFというより、星新一のようなショートショートやブラッドベリのようなちょっと切ないSFを主にSF作家として知られていた。特に時間や距離に翻弄される男女を書かせたらうまい。それは本書も同様だ。
出版社の『泣けるホラー』という大仰な文句を真に受けて読むと肩透かしを食うかもしれないが、アイドル出演映画の原作ということで本書を避けていた人は、楽しめるので一度読んでみて欲しい。短編集『黄泉びとしらず』も併せてオススメ。
新潮社(新潮文庫)