シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOP『空の名前』高橋健司

紀伊国屋「おすすめの1冊」

2004年11月8日

『空の名前』高橋健司

photo「東京には空がない」と言ったのは高村智恵子だったろうか。郷里や旅先以外で、つまり私の場合は、東京やシンガポールの空が美しいと思ったことがない。考えてみると、「社会人」というものになって以来、空を見上げること自体がほとんどなくなっていることに気付く。唯一気にするのは、雨が降っているかどうかという毎日。これでは、美しいと感じる以前の問題だと思う。

空、特に雲には日本語では様々な名前がある。すぐに思い出せるのは飛行機雲と入道雲ぐらいだが、徒雲、浮雲、笠雲、雲の通路(かよいじ)…とあきれるほど豊富だ。雲だけではなく、雨や雪、風にさえ名前がある。名は体を表しているというような名前もあれば、美しく響く名前もある。ちなみに、「スコール(squall)」が雨を指す言葉ではなく、本来は、つまり英語そのものは疾風や突風を指すことを本書で知った。これからは「篠突く雨」とでも言おうかと思う。

ここに紹介しているのは、読み物としての「本」ではない。分類すると図鑑になるが、様々な空や季節の名前と写真が記載されている。ちょっと高いけど、たまにパラパラと眺めているだけでも非常に面白いので、一家に一冊あっても良いのではないだろうか。もちろん、無くても全然困らないけど。

今日、久しぶりに空を見上げて見たら、昔と変わらない顔をして青く澄んでいた。あどけない空の話である。

 

角川書店

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.019(2004年11月08日発行)」に掲載されたものです。
文=茂見

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOP『空の名前』高橋健司