私が何を思っていたかに関係なく、惨劇は発生していた。別の部署のW係長から10時過ぎに「日比谷線の茅場町辺りでテロが発生したらしいよ」と聞いたのが、私にとっての第一報だった。今でも覚えているが、それを聞いたときに私が思ったのは、「茅場町って東京のどの辺?」だった。間が抜けている。
「地下鉄サリン事件」として世に知られるこの事件は、1995年3月20日月曜日の朝、一つのカルト教団によって引き起こされた。本書は、その被害者たちの声を村上春樹がまとめたものだ。思い出したくもない方々もいらっしゃる筈だが、決して忘れてはいけない事件だと思う。悪夢が未だに被害者の方々の心を苛んでいないことを切に願う。
講談社