シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOP『かつて白い海で戦った』沢木耕太郎

紀伊国屋「おすすめの1冊」

2005年3月14日

『かつて白い海で戦った』沢木耕太郎

photo-5今年1月、写真集「カシアス」が発売され、そして先月1日、カシアス内藤が癌と戦いながらもジムを開設した。まだ写真集は手に入れていないが、ふと、カシアス・クレイ(モハメド・アリ)からリングネームをつけた彼の物語を再び読みたくなった。読むだけでこんなに熱くなれるノンフィクションはない、少なくとも私には。写真家の内藤利朗、何人もの世界チャンプを育てたトレーナーのエディ・タウンゼント、そして著者たちが「いつか」を手に入れるため、燃えるためではなく燃えつきるため、元東洋ミドル級チャンピオンのカシアス内藤の再起に尽力する。これが「一瞬の夏」として知られるノンフィクションのあらすじだが、この内藤に関する物語には第一部がある。それが「クレイになれなかった男」。人間には、燃えつきる人間と、そうではない人間と、いつか燃えつきたいと望みつづける人間の、3つのタイプがあるのだと、著者は言う。望みつづけ、望みつづけ、しかし「いつか」はやってこない。内藤にも、あいつにも、あいつにも、そしてこの俺にも…四半世紀前の話なのに、全然色褪せていない。「一瞬の夏」のエピローグであり、やがて書かれる「冬の戴冠」のプロローグでもある「リア」が収録されているのが本書の「かつて白い海で戦った」。これを読まずしてスポーツ・ノンフィクションを語るべからず、と言っても過言ではない、たぶん。

 

文藝春秋

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.035(2005年03月14日発行)」に掲載されたものです。
文=茂見

おすすめ・関連記事

シンガポールのビジネス情報サイト AsiaXライフTOP『かつて白い海で戦った』沢木耕太郎