本書は『空中ブランコ』と同様に「爆笑必至」とうたっており、実際にそう感想を言う人は多い。確かに面白い。しかし読み進む内に面白さの裏にある怖さを感じる。身につまされるというか「これは自分の事ではないか?」と思えて笑えなくなるのだ。特にケータイ中毒の回は自分が今高校生だったらこうなっていただろうと憂鬱になった。誰もが高校生の頃は、この章の主人公のように自意識過剰だったはずだから(筆者だけか?)。しかし、そんな暗くなる気持ちも全て伊良部の奇行が吹き飛ばしてくれる。彼の行動はまるで平成の無責任男と言わんばかりのノリ。だが、それがいい。この男がいるおかげで、各章の主人公も読者も最後はさわやかな気持ちになれる。そこの所は良く出来ている。
最後に内容とは関係ないが、表紙の装丁がニルヴァーナ『ネバー・マインド』のジャケット風なのも洒落ていてマルだ。
文藝春秋