『榊原英資 インド巨大市場を読みとく』 榊原英資・吉越哲雄

インドのIT産業は目をみはる成長を遂げている。同著者による「インドIT革命の驚異」がこの点について詳しく述べているが、最近では製造業やインフラ産業がIT産業に続いて大きく飛躍する気配を示しているそうだ。国内の中産階級が成長し内需の拡大が進行した結果、中国に続く有望市場としてその姿を現し始めているのである。本書は「ミスター円」の異名をとる榊原英資氏が歴史的な視点を通して、またシンガポール在住のエコノミストである吉越、吉田両氏が日々の情報分析を通してインド経済を考える鍵を提示している。

世界中の患者が集まる高品質医療サービス、外資系企業の成功と失敗を分けたマーケティング手法、そして近い将来労働力不足が懸念される先進国を狙った遠隔サービスの提供プランなど、これらの具体例によって『インド＝貧困に苦悩する国』といった先入観に縛られている読者はきっと驚きの連続を経験することになるだろう。近い将来到来するであろう中国とインドを中心としたアジア新時代において、日本が描くべきグランドデザインについても触れられており興味が尽きない。15件のコラムは読者の通読中の緊張した気分をほぐしつつインドについての知識に彩りを添えてくれることだろう。

東洋経済新報社