最初に感じるのは違和感。登場人物たちと私たちは何かが異なっているという違和感。生い立ちなどの背景が異なるのは当たり前だが、そんなことではなく、決定的に異なっているものが存在しているのに気付く。
読み進めるうちに、何が異なっているのか明らかになっていく。ふと冷静に考えると、薄ら寒くなるような事実でもあるので不気味にも感じる。
最後まで当事者が反乱を試みたり、彼らを助けようとしたりするヒーローは登場しない。我々と変わらない日常がそこにあり、あるがままに日々が過ぎていく。そして提供する日がやってくる。
著者の作品は映画化された「日の名残」を映画で見ただけで小説を読んだことはなかったが、登場人物の心の動きを巧く描いていると思う。特に、非常に細やかに女性を描いているように感じた。
因みに本書は、2006年度キノベスの第一位受賞作。紀伊國屋書店がオススメする30作の中で栄えある第一位に輝いた作品。
早川書房