それで思い出したのが、高野秀行が単身でゴールデン・トライアングルに潜入・滞在した見聞録である本書。彼が潜入したのは、クン・サが牛耳るミャンマーのシャン州ではなくワ州。そこは政府の力の及ばぬ、旧共産党の一派であり反政府ゲリラでもあるワ軍が牛耳る地域。植民地時代から部外者が長期滞在したことのない政治的秘境に、高野は興味を持つ。ワ州は平地が乏しいため食糧の自給もできず、かといって換金作物の栽培も十分にできない。そこでワ軍は現金収入を得るために、ヘロイン・ビジネスに手を染める。
著者が興味を持ったのは、そこに住む人々。彼はそこでケシの栽培に従事する。村人たちは、どこにでもいる純朴な人々だった。彼は、ケシをヘロインではなくモルヒネ、つまり麻薬ではなく医薬品として輸出することを思いつく。
書名だけだと何だかわからない本のように見えるが、ミャンマーに住む少数民族の日常を記録した、数少ない文献の一つと言える。
集英社