この小説が独特なのは、短編にもかかわらず、時間の流れが早いことである。主人公の男性の30代から50代の人生が描かれているのだが、結婚、妻の出産、新居の購入、育児といった、人生の節目と言えるイベントが駆け足で盛り込まれている。にもかかわらず、散漫な感じがせず、それぞれ含蓄を感じる内容であるのは、さすがと感じた。
11年間、お互い口を利かない夫婦。関係はぎくしゃくしているのだが、どんなに性格や価値観が違っても、長く生活を共にするという事実は重い。この事を、小説から読み取ることができた。
一つの段落が長く独特の文体と感じるが、リズム良く一気読みできる一冊である。
新潮社