今回ご紹介する本はそういう世紀の難問についての話である。
100万ドルの賞金がかけられ、世紀の難問のひとつとされた「ポアンカレ予想」の証明。1904年にフランスの数学者アンリ・ポアンカレによって提出されて以来約100年に渡り未解決であった。そしてまた21世紀中の解決も無理であろうと言われていたその証明が、2002年に突然ネット上にアップされ、その後の検証により2006年頃にはその証明が正しい事が確認され、大きな話題となった。しかし、その証明への驚嘆と等しく世の中を驚かせたのはその世紀の難問を解いたロシアの数学者、グリゴリー・ペレルマンのその後の行動であった。数学界で非常に権威のあるフィールズ賞の受賞を拒否し、研究所も辞職、100万ドルの賞金の受け取りも拒否、数学界からも世間からもすべての連絡を絶ってしまったのである。
何故彼は、突然今までの世界から消えてしまったのだろうか……。
本書はその謎へ迫っていく。しかし、実際のところ、本書の著者であるマーシャ・ガッセン本人もペレルマンには取材を再三申し込んでも拒否され、一度も会ったことも、話したことも無いという。世紀の難問を解いたペレルマン。彼はどういう世界で生まれ育ち、世紀の難問を解くに到ったのだろうか。ペレルマンの周囲にいた人たちへの綿密な取材から描き出す傑作評伝。
文藝春秋/ISBN:9784163719504