2013年9月2日
『花いくさ』鬼塚忠
華道という芸術が戦国時代に民衆から大きな支持を得ていて、池坊専好という偉大な人がいたことを知っていますか?恥ずかしながら、私はこの本を読むまで、知りませんでした。受験では結構マニアックな日本史を解いたんですけど……。
安土桃山時代、太閤秀吉が栄華を誇っていた時です。京都の六角堂(今もあります)の僧職で池坊流の家元、毎朝の立花で群衆を集めていた花の名手が専好さんです。若いころには織田信長からも認められた腕前です。また、芸の道はどこかで通じ合っているのでしょうか、年齢や専門分野を超えて、茶道の千利休と厚い友情を結んでいました。ところが、あくまでも俗っ気の多い秀吉と、芸の道を貫こうとする千利休の関係がこじれ、破局が訪れた時、専好さんの運命を分ける瞬間も近づいていました。己の誇りを守るために。
優しい人が誇りを守るために決意を固めるとき、その過程が見事な筆致で描かれています。花の描写も圧巻。戦国時代にあった一徹で涼やかな男たちの物語、是非手に取ってみてください。
角川書店/ISBN:9784041100691
協力=シンガポール紀伊國屋書店
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.241(2013年09月02日発行)」に掲載されたものです。
文=シンガポール紀伊國屋書店 河合