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クイーンズタウン

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クイーンズタウンは、郊外の始まりといった立地ながら、オーチャードまではバスを利用してドアtoドアで30分弱、MRT東西線の駅もあり、利便性の良さから、2010年頃をピークに、現在も日系企業駐在員の一家が好んで住むコンドがあり、日本人には比較的馴染みのあるエリア。便利さがゆえ、住んでいても意外とよくは知らないという人も少なくない当地を今回は掘り下げる。

 

シンガポールで一番古い「ニュータウン」

クイーンズタウンについて書かれるとき、当地のメディアでは多くの場合、枕詞のように「シンガポールで最初のニュータウン」などという記述ではじまる。現在はHDBやコンドが多く立ち(写真①)、家族連れの姿が多くニュータウン然としているが、第二次大戦前は、プランテーションと墓地、そして、ヤシの葉を、屋根に葺き、編んで壁にした粗末な家に暮らす集落があるだけのカンポン(村)然とした土地であった。それが、エリザベス女王の即位を記念し「クイーンズタウン」と名付けられた1952年頃、転機を迎える。人口増加などのため、それまでの生活様式がフィットしなくなってきていたシンガポールに、イギリス植民地政府は、新しいライフスタイルの提供をしようと、地区にすべての生活機能を備えたニュータウンの建設を計画し、その第一号としてクイーンズタウンが選ばれたのである。農地や墓地だった場所に次々と公営住宅が建てられ、村は町へと姿を変えていった。ニュータウンの計画は、植民地政府から自治政府へ引き継がれ、公営住宅はHDBと名称を変え、さらにシンガポール建国後も進められた。64年にはクイーンズタウンのHDBに分譲スキームが初めて導入され、以降、シンガポールでは所得の低い者も持ち家を所有することが可能になった。さらに、シンガポールで初となるポリクリニックや地区専用図書館が設置され、コミュニティーセンター、映画館、スポーツ・コンプレックスなども次々と町づくりに加わった。

❶クイーンズタウンに立ち並ぶHDBとコンド

 

その後、一通りの発展が完了し、新たな設備の導入が途絶えた1980年代には、若い人たちは他の新しい町へと移り住み、クイーンズタウンはお年寄りが住む古い町と認識されるようになる。だが、90年代に入ると、古いHDBが順次建て直しされるようになり、さらに、コンドの建設、IKEAAnchorpointのオープンなどにより町は活気を取り戻し、今に至る。加え、2015年にはドーソン地区に、シンガポールの各地区が時代に合った雰囲気を保つよう政府がすすめる「Remaking Our Heartland」計画により、SkyVille@DawsonSkyTerrace@Dawson(写真②)という、近代的でしゃれた外観の新しいコンセプトのHDBが景観に加わり、地区の活性化を後押ししている。どちらも屋上は共有のテラスになっており、住民でなくても出入り自由。特に SkyVille@Dawsonの屋上(写真③)は見晴らしが良く、南側はケッペルベイ、北側はマレーシアまで一望できる。

 


左: ❷SkyTerrace@Dawson、右: ❸SkyVille@Dawsonの屋上

散策も楽しいクイーンズタウン

クイーンズタウンといえば、スポーツ用品が安いQueensway Shopping Centreや Charles & Keithなどのアウトレットが入るAnchorpointが主に知られるところだが、訪れるべきはそれだけではない。Alexandra Village Food Centre(写真④)は、規模が大きく選択肢の多いホーカーセンター。ここの「名物」ともいえるのが、アボカド、エバミルクと牛乳をミックスした飲み物の、クリーミーな味と舌触りがクセになるアボカドミルク(写真⑤)で、Mr Avocadoをはじめいくつもの店で売っているのを見かける。

 

左: ❹Alexandra Village Food Centre、右: ❺アボカドミルク

 

Depot Road Zhen Shan Mei Claypot Laksaはじっくり煮込んだ濃厚なスープが土鍋に入った熱々の変わり種ラクサ で人気の店。Shanghai La Mian Xiao Long Baoは小籠包や餃子(写真⑥)が美味。特に皮がカリカリで豚肉のうま味が詰まった焼き餃子は日本人好み。Nasi Padangは、マレー風総菜ナシパダンの店。注文は、ビーフレンダンや魚のトマトソース煮込み、野菜料理など、陳列された中から好きな品を選んで指させば適量を盛ってくれる。(写真⑦)

 

左: ❻Shanghai La Mian Xiao Long Baoの小籠包と餃子、右: ❼Nasi Padangのナシパダン

 

あまり知られてはいないが、クイーンズタウン駅からほど近いHDB群の中に隠れるようにあるウェットマーケットのMei Ling Market(写真⑧)は、安くて新鮮な野菜や果物、肉、魚を求める人でにぎわう。スーパーではあまり見ないトロピカルフルーツなども多く、店の人とのやり取りで時にはおまけをしてくれたり、普段と違う買い物体験ができるだろう。午前中で店じまいするところが多いので早めに出かけたい。

 

❽Mei Ling Market

 

Park Hotel Alexandraの7階には、雰囲気の良いプールがあり、併設のバーAqua Luna(写真⑨)は一見、高級感が感じられ敷居が高そうだが、フルーツジュースが5ドル、ワインは12ドルからなど、利用しやすい価格設定で、気軽に非日常にエスケープできる空間。

 

❾Aqua Luna

 

何もないカンポンだった場所に、生活に必要な新しい施設をどんどん作り、老朽化したものは建て替えて町を古くさくせず、人々をひきつけ続ける。スクラップ・アンド・ビルドを繰り返し発展し続けるシンガポールという国を体現するクイーンズタウン。シンガポールでいち早くつくられたニュータウンに打たれる次の手はいかなるものか、注視に値するところである。

 

クイーンズタウンのおすすめスポット
建国より前からある、古き良き時代感漂うカフェ・バー「Colbar」

 

Colbarは1953年にイギリス軍基地の食堂としてオープンして以来、営業を続けている。2003年、元の所在地が自動車道の建設用地にかかったため現在の場所に移転したが、現在の建物は歴史的価値を考慮した政府機関の協力のもと、オリジナルにできるだけ忠実に再現され、築10数年とは感じられない懐かしい雰囲気。メニューは、基地食堂の名残を感じさせるポークチョップなどの西洋料理に、ローカルらしいホーファンなどもある。少々不便な場所にあるが、緑に囲まれており、葉擦れの音や鳥の声が満ちるテラス席に座れば、忙しい現代を離れ、時代をさかのぼったかのような不思議な錯覚に陥る場所だ。