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ラベンダー

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機械修理と機械部品の店が軒を並べ、その間に仕事帰りの男たちが立ち寄る24時間営業のホーカーセンターやKTVが点在する男くさい場所であったところに、近年、カフェやゲストハウスなどが増え、労働者と若者、外国人旅行者が行き交う面白い場所へと進化しているラベンダー。今回のエリアガイドは、その歴史と、この地を選んで集まって来た個性あふれる店などを紹介する。

 

受け継がれるダイバーシティ。
ラベンダーの歴史

「ラベンダー」の地名は、エリアを東西に貫くラベンダー・ストリート(写真①)にちなむ。通りの名前が正式に決められたのは1858年。19世紀から20世紀初頭まで、一体は悪臭が強く、良い香りの花の名前をつけようという、住民から自治体への皮肉の効いた冗談めかした提案が受け入れられたことによる。悪臭の源は、一帯の農場に堆肥として使われていたふん尿だったとも、通りにあったガス工場であったともいわれる。

 

❶ラベンダー・ストリート

 

ブギスからラベンダー方面へ、ビクトリア・ストリートを北上すると、突然、緑に覆われた開けた土地が現れる。そこは、シンガポールで最も古いムスリム墓地のThe Jalan Kubor Cemetery(写真②)だ。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、有力なアラブ商人アルジュニードが、交易の場となっていたカンポングラムからほど近い場所に墓地を造らせたのをきっかけに、周辺で生活していた、マレー系、インド系、インドネシア系ムスリムの人々が埋葬され墓標が立った。ひと口にムスリム墓地といっても、さまざまな様式の墓を擁し、その当時からのシンガポールのダイバーシティぶりを感じさせる。墓地の土地は現在、政府の所有となっているが、都心の好立地でありながら、これまで開発の計画などの話が持ち上がったことは一度もない。

 

❷The Jalan Kubor Cemetery

ビクトリア・ストリート沿いに続く墓地の終わりは、インド系ムスリムが埋葬されていた区画で、そのすぐ隣にインド南部のマラバール地方出身のムスリムたちがMalabar Mosque(写真③)を建てた。現存する、一面ブルーの幾何学模様で覆われた壁と、金色のタマネギ型のドームが印象的な建物は60年代に建て替えられたものだが、現在は人種を問わずムスリムが礼拝に訪れている。

 

❸Malabar Mosque

ラベンダーはもともと、広東人が機械修理業、福建人が機械部品業、海南人がコーヒーショップ、と、出身地の異なる中華系の人々がそれぞれの生業で共存していた場所であった。(写真④)現在は、ホテルやゲストハウス、カフェなどがその間に入り混じり、人の出入りが増え、都会の様相へと変化してきている。

 

個性あふれる魅力的な店が点在

ラベンダー界隈には、インディペンデント系のカフェが多い。Chye Seng Huat Hardware(写真⑤)は、かつて機械部品の業者が入っていたビルを、エリアの歴史に敬意を表し外観はそのままに、内装を改装して使用している。この店はシンガポールのサードウェーブコーヒーのパイオニア的コーヒーロースターのPAPA PALHETAが経営しており、厳選された豆を用いたバリスタが淹れる本格的なコーヒーを味わいに、一度は訪れたい。

 

❺Chye Seng Huat Hardware

 

サー・アントニオというネコのキャラクターの描かれたボトルに入った商品が、日本では、通販や期間限定のポップアップストアでしか手に入らないにもかかわらず、雑誌などでも紹介される人気ぶりで、時に注文から数ヵ月待ちということがざらの人気ティラミス店、The Tiramisu Heroの本店(写真⑥、⑦)も、ラベンダーにある。本店では、日本と違い待ち時間なく購入でき、また、カフェメニューもあるので、ゆっくりランチを食べてから、またはティータイムに、コーヒーや紅茶などと一緒に店内でティラミスをいただくことができる。

 

❻❼The Tiramisu Hero

 

ラベンダー駅から徒歩すぐのKitchener Complexに入るMahota(写真⑧)は、ワンフロアを占有し、健康志向の人たち向けに、「良い食材を育て、良い食事を出し、良い食料を売る」、「持続可能な社会を築く」というコンセプトをもとに、自ら育てた野菜をはじめとするオーガニック食材などを売るスーパー、自慢の素材の味を生かした料理を出すカフェに加え、イベントスペースが併設され、ヨガ教室や、ファーマーズマーケット的イベント、ワークショップなどの催しが開かれているので、興味のある人はFacebookページをフォローするなどしてイベント情報を入手するとよいだろう。

 

❽Mahota

 

今回取り上げたのは、ごく一部の有名店。紹介しきれないほどあるカフェの中から自分のお気に入りを見つけに、何度も足を運んでみるのも楽しいかもしれない。

 

多様な文化が共存してきた街、ラベンダー。3Kの仕事を若者が嫌い、寂れる一方であった当地に、世界中から来た旅行者や、刺激を求め集まる若者たちが集まり出し、さらなる層が加わった。この地も、常に変化し続けるシンガポールの宿命に逆らうことはできない。

 

 

都心近くにこんな静かなところが?!
カラン・リバーサイド・パーク

 

 

カラン・リバーサイド・パークは、カラン・リバー河口の両岸沿いに設えられた各サイド全長約700mの細長い緑地。にぎやかなシンガポール・リバー岸とは違い、付近に商業施設も見どころもなく、また、イーストコースト・パークやウェストコースト・パークのようなアミューズメント設備もないため、週末でも訪れる人は少なく、とても静か。都会の喧騒を離れて静かな時間を過ごしたい時に散策するには最適な場所だ。今後20年かけて目論まれるカラン・リバー沿いの再開発計画の一環として、2018年6月末まで一部リノベーション工事が行われている。