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ティオンバル

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公団住宅が並び、コンドミニアムも増築中。商業施設が駅に直結し、市場もある。住宅街であり、その機能をサポートする施設が充実する一方、書店やカフェの出店が進んでお洒落な街としても人気で、住民以外も多く訪れる場所だ。1946年創業の海南カレー店の店主、ルー・キア・チー氏は「昔とはずいぶん様変わりしたよ」と、感慨深く街を眺める。この街の、昔と今が混ざり合う姿を見て回りたい。

 

エリア散策の起点はわかりやすくMRTティオンバル駅と言いたいところだが、モー・ガン・テラス(写真1)とする。その理由を、街の歴史から紐解いてみよう。

 

(写真1)

 

ティオンバルの名前の由来は、tiong=中国福建省の言葉で「終わり(墓)」、bahru=マレー語で「新しい」。実はこの一帯には1920年代まで墓地があった。国の人口増加による住宅不足解消のため、住宅開発庁(HDB)の前身であるシンガポール改善財団(SIT)が、墓地を移転させ、この地への住宅建設を決定したのだ。SITによる住宅は1936年から1941年にかけて建てられ、その建物にはアール・デコ様式から派生したストリームライン・モダンが採用されている。外形や角が曲線的で、舷窓を思わせる丸窓などが配されているのが特徴的。建築ファンを虜にする魅力的な外観だが、第二次世界大戦の面影も残しており、SITによる住宅の第78棟であるモー・ガン・テラスの地下には当時設けられた防空壕が、いまなお保存されている。まずはこの歴史的建造物を目指してもらいたかったのである。

 

市場に、海南カレーの老舗に
住民の胃袋を支える美食店

モー・ガン・テラスを見たら、セン・ポー・ロード沿いに歩いてみよう。ティオンバル・コミュニティ・センターを右手に望みながら進むと、並びに前述の海南カレー店、ルーズハイナニーズカレーライスが見えてくる。7時45分開店、14時45分閉店という早い営業時間にもかかわらず、朝から行列をなす名店だ。ブルージンジャー、イエロージンジャー、レモングラスをミックスした奥行きのある辛さのルーと、カリカリのポークチョップや煮込んで甘くなったキャベツなど豊富な具材を合わせていただく。「パウダーの香辛料を使うインドカレーは香りが強いけど、海南カレーは味そのものを楽しむように作られているから、日本人にも馴染みやすいはずだよ」とルーさん(写真2)。

 

(写真2)

カレー店の向かいには、ティオンバル・マーケット(写真3)がある。シンガポールで最初の大型市場で、鮮度の高い海鮮や精肉が入手でき、ホーカーにはおいしい屋台が多いことで有名。2017年の改装で、店同士の間隔が広がり、品物が見やすく、使い勝手のいい市場へと進化している。

 

(写真3)

 

さて、マーケットを出たら、リム・リアック・ストリートとの交差点を右折し、ティオンバル・ベーカリーへ。フランスの名パン職人であるゴントラン・シェリエ氏がプロデュースする同店は、カフェが併設され、テーブル席があるものの常に満席。よって名物のクロワッサンはテイクアウトするのがお薦めだ。続いてティオン・ポー・ロードとの交差点にある齐天宫(写真5)を目指し、賢く、勇敢で強健と称えられる猿の神に挨拶を。

 

左(写真4)・右(写真5)

 

お洒落な書店やカフェが並ぶ
ヨン・シアック・ストリート

ティオン・ポー・ロード沿いにモー・ガン・テラス方向へ向かい、ヨン・シアック・ストリートへと入る。長さ100メートルに満たない短い通りだが、豆の栽培や淹れ方にこだわった高品質なサードウェーブ・コーヒーのシンガポールの第1人者でもあるハリー・グローバー氏が手がけるフォーティー・ハンズや、可愛いミニカップケーキが並ぶプレイン・ヴァニラ・ベーカリーなど、素敵な店が連なる。なかでも注目は、2005年にオープンしたブックス・アクチュアリー(写真6)。地元の作家の小説を中心とした、オーナーのケニー・レック氏の選書センスが光る。「オープン当初、周りは住宅だけでした。なぜこの場所を選んだのか?家しかないエリアだから、家賃が安かったんです」とケニー氏は冗談めかしく笑う。が、この店を目指してカルチャー好きがティオンバルを訪れるようになり、そういった顧客をターゲットとしたカフェが周辺に増えてきたことを考えると、一帯のパイオニアと捉えても過言ではないだろう。

 

(写真6)
(写真7)

 

エリアを周回したら、ティオンバル駅へ。最後に忘れてならないのが、エリア初のショッピングモールとして1994年に建設されたティオンバル・プラザ(写真7)。「ぱっと見はノスタルジックな建物に現代的なデザインを融合させた外観や、50年以上前からティオンバルで楽しまれたバードシンギング文化(鳥の声を愛でる)を子供向けプレイグラウンドに取り入れるなど、この建物は「今と昔を隣り合わせにする」ことがテーマです」と広報のシンディ・タムさん。駅直結のこの建物は、ティオンバル・タイムトリップツアーのゴールにふさわしい。

 

ティオンバルのおすすめスポット
古き倉庫を蘇らせた「ザ・ウェアハウス・ホテル」

 

ティオンバル地区の北東を流れるシンガポール・リバー。かつてマラッカ海峡の貿易ルートとして栄えたこの川沿いに香辛料の倉庫として1895年に建てられたウェアハウスをリノベーションし、2017年1月、ブティックホテルとして蘇らせた。居心地のいい全37室の客室やロビー、エントランスは「工業的なデザイン」という概念を再定義した、洗練されたインテリアとなっている。内装デザインを手がけたのは、地元のデザインエージェンシーであるAsylum。シンガポールの伝統的な料理をモダンに昇華させたレストラン「Po」も併設されている。

 

 

住所 : 320 Havelock Road, Robertson Quay, Singapore 169628
www.thewarehousehotel.com