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シンガポール教育談義

2016年11月7日

最終回 シンガポールの大学事情

シンガポールの大学入試が難関であることは有名ですが、多くの大学ランキングの中でも、最も権威があると言われるイギリスの教育専門誌、Times Higher Education(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション)から6月に発表された2016年のアジアの大学ランキングで、シンガポール国立大学(National University of Singapore、NUS)が東京大学を抜き1位になったことは記憶に新しいと思います。南洋理工大学(Nanyang Technological University Singapore)も、前年度から大きく順位を上げ、北京大学と同率2位になり、アジアのトップ2を占めました。

 

連載最後となる今回は、シンガポールの大学事情にどのような特徴があるのかお伝えしたいと思います。

 

欧米トップスクールとのパートナーシップ

シンガポールの大学の躍進には、国の教育や研究開発に多くの投資をし、国際競争力を高めようとする政府の意向が見て取れるでしょう。シンガポールの大学が躍進した要因の一つには、欧米のトップスクールとの積極的なコラボレーションの成功があると言われています。

 

例えばNUSと、米ノースカロライナ州にある医学校Duke University School of Medicineとが共同で設立したDuke-NUS Graduate Medical Schoolは評価も高く、人気があり入学が難しい学校の一つになっています。こちらの大学院を修了すると、NUSとDuke University School of Medicine両校からのDegree of Doctors of Medicineを取得することができます。またNUSと、米イェール大学とで設立されたYale NUS Collegeは、シンガポールで初めてリベラルアーツを提供する大学となりました。その合格率は欧米のトップスクール並みで5%を下回るとも言われ、設立以降、大変な人気になっています。

 

シンガポールの豊富な奨学金・助成金制度
また、シンガポールの大学では、外部団体からのものも含め、豊富な奨学金制度があります。申請時から優秀な生徒を候補に挙げ、積極的に奨学金を出していくため、学生側にとっても高額な学費を気にせずに学びやすい制度になっています。さらに入学後も成績によっては奨学金に申し込むことが可能です。

 

これら奨学金制度はシンガポール人向けというイメージが強いようですが、外国人向けにも、Tuition Grandという政府からの補助金制度があります。卒業後に3年間シンガポールの大学で働くという条件はあるものの、こちらが承認されれば、通常の外国人の学費(年間2万5,000Sドル~、医学部は年間11万Sドル~)の半額以下になり、医学部の場合は、年間3万Sドル以下にまで学費が下がります。

 

そのほか外国人向けに、学費から寮費まですべてをカバーする奨学金などもあります。この場合も、成績を維持すること、卒業後にシンガポールで登録されている会社で働くこと、などの条件がつきますが、海外から優秀な人材を集めるための施策として、奨学金制度は大きな役割を担っていると言ってよいでしょう。

 

海外の大学へ進学するシンガポール人生徒たち
シンガポール人生徒について言えば、全体の約3割しか5校ある国立大学へ入学できません。そのため、難関の国内大学への進学を諦め、海外の大学へ留学するケースも多くなっています。なかでも医学部や法学部などの国内の大学人気学部への入学は大変難しくなっており、これらの学部を目指す場合、成績によっては海外の大学の同学部へ留学するほか選択肢がない、ということもあります。

 

留学費用の負担が可能という家庭の場合、無理をして競争が激しいシンガポールの大学を目指さなくてもよい、という選択肢ができ、比較的簡単に入学ができるオーストラリアやイギリスの大学へ留学する、というケースも増えてきているようです。

 

それとは逆に、シンガポールで成績がトップクラスの生徒たちは、欧米のトップスクールへの入学も容易に可能なため、自身の可能性を求めてこれら欧米の大学へ留学していく、ということもあります。

 

シンガポールの就職事情と留学
難関の国内大学の入学枠が、外国人の入学受け入れにより減っていくと案ずる国民の反発を考慮し、外国人の大学入学も以前よりも厳しくなっていると言われています。

 

また、近年では外国人の外国人幹部・専門職向け就労許可証であるEmployment Passの審査を厳格化する動きも進んでおり、留学希望者を減らすのではという意見もあるようですが、国を挙げて豊富な資金を用い、国際的競争力の向上を目指すシンガポールの大学は、外国人留学生をこれからも惹きつけていくのではないでしょうか。

 

英語力という壁を乗り越え、シンガポールの大学を含め海外の大学を目指すという選択肢が、日本人生徒にとって当たり前になる日が楽しみです。

 

著者プロフィール    岡部 優子(おかべ ゆうこ)
早稲田大学大学院卒。JPモルガン証券を経て、当地学校法人と日本人家庭の架け橋の役目を果たしたいとCulture Connectionを設立。シンガポール留学をメジャーにするのを目標に、人生の中でも大きな決断となる海外の学校選びの仕事に自覚と責任を持ち、信頼を大事にしながらサポートに励んでいる。

この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX vol.313(2016年11月7日発行)」に掲載されたものです。

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