2006年3月20日
誂えるBESPOKE
日本のメンズ雑誌でもそこここで見かけるのがこのテーマ。粋な男のこだわりを叶えるテーラーメードがおしゃれの代名詞のように取り上げられている。もともとスーツは「買うもの」ではなく「誂える」ものだった、というと英国紳士のつぶやきのようだが、トレンドを反映したレディーメードを着こなすのも良いけれど、やはりそれを突き詰めるからこそ体にぴったりくるスーツが欲しいところだ。
スーツは男のこだわりの表れ。とはいえ、日本でのオーダーメードのスーツは、20万円をゆうに越える。なんとシンガポールではその4分の1ほどで叶うとしたら、試してみる価値もあるという物だ。気に入ったテーラーを見つけたら、クローゼットを一掃するのも悪くないし、男だって特別なパーティーに合わせて礼服を誂える、なんていうことがあってもいい。
目次
男の仕事着、自信のほどは着こなしに表れる。
毎日のスーツ、上手に着ていますか?
トレンド雑誌に登場するのはいつも非現実的で完璧なスタイルのモデル達。ちょいモテ、ちょいワルよろしく、着こなしマニュアルやトレンド情報を追求するあまり、コンプレックスに陥ることはないだろうか。自分の体型や年齢に見合った着心地の良い上質のものこそ、実はエレガンスの基本。 ふと毎朝鏡の前で思うコト、よくある悩みを取り上げてみよう。
手間とコストはかかるが、何事もバランスが大切、試す価値大。
理想のスーツを求め、テーラーのドアを叩く。
AsiaXがビスポークスーツを誂えた。
シンガポールには星の数程テーラーがある。いざ、テーラーメードに挑戦、と思ってもまずはテーラーを選ぶ事から始めなければならない。今回AsiaXでは、シンガポールで創業50年、オーチャードのマンダリンホテルの中に20年以上店を構える「マハラジャ」にお願いする事にした。店主のボブさんは、両側に堆く積まれた生地の中から笑顔で迎えてくれる。ベッカムや前フランス大統領シラク氏の写真が目につく。祖父の代からテーラーで、シンガポールで最も旧い看板だと自負する。親子でボブさんの店に通う顧客もいるという。「何事もそうですが、お客様との間に信頼関係を築くことが大切です。その為には、お客様の好みやライフスタイルをとことん聞いて、望むスタイルを作り上げる事ですね。」と長年のビジネスの秘訣を教えてくれた。テーラーメードの事をビスポーク(Bespoke)と呼ぶそうだ。話し合い、というのが語源だが、服や靴のあつらえ品やカスタムメイドを指す。ボブさんの話を伺うに、まさにテーラーの心得も垣間みたようで、スーツを仕立てる過程も楽しみになってくる。
1.どんなスーツにしたいのか、全体のイメージを伝える
仕立てるスーツをどんな場面で着るのか、オフィスならデスクに座っている事が多いのか、立ち仕事なのかというのもスタイルに影響する。また、デザインやディテールについては、雑誌などの写真を持っていって説明すると間違いがない。
2.豊富な生地から好みや予算に応じて選ぶ
シンガポールで着るなら、おすすめの生地はカシミアウール、メリノウール、シルクウールのスーパーファインという薄めの柔らかいもの。鏡の前で生地を当てながらあれこれ選ぶ。シャツも同時にオーダーする場合は、こちらも100種類近い生地から選ぶ事になる。材質やパターン、色の好みを伝えると数種類取り出してくれる。生地の種類で値段が変わるので、この時点でざっくりと価格を確認しよう。
3. サイズから体型のクセまで、プロの採寸で詳細にデータを取る
肩幅、胸幅はもちろん、股下や太もものサイズなど15カ所近く計測。肩の位置、腕の長さの違い等も細かくチェック。 仮縫いの試着の日時のアポイントをここで入れる。
4. 仮縫い(フィッティング)
サイズゲージと呼ばれる別布で仕立てた仮の上着を羽織ってフィット感や丈の長さをチェック。マスターカッターが再び肩幅などの採寸を確認する。スタイルは綺麗に、でも機能性重視と言う注文に、胸回りの着心地を確認しながら、よりウエストを絞り込んでスリムなスタイルに修正した。
5. 待望の仕上がり
こだわった分だけ仕上がりが楽しみでした。採寸から約6日で完成。
あの人の着こなしが気になる!
スーツの似合う粋なビジネスマンにインタビュー
日系建設業営業担当
平野達也さん
スーツを着こなす時に気遣っている点は何ですか?
仕事柄、ダークスーツが多いのですが、明るい色のシャツ程ダークなスーツを着るようにしています。後はシャツの色にネクタイを合わせる、といった程度です。 鞄、靴、時計のベルトなどの皮小物の色は揃えるようにしています。
最近のトレンドで着こなしに取り入れている点は?
ジャケットは3つボタンが多いです。ぴったりしたスリムより少しゆったり目が好きですね。
気に入っているブランドはありますか?
スーツはヒューゴ・ボス、シャツはブルックスブラザーズを愛用しています。 そのブランドなら既製品でもぴったりくるので。
テーラーメードはしたことがありますか?
日本でイージーオーダーはしたことがあります。肩周りが合わなくて、あまり良い経験ではなかったです。型紙からおこすオーダーメードには無論興味があります。シンガポールでは、生地は良い物があるようですが、やはり仕立てに信頼が置ける店がわからないのでトライしたことはないです。いいテーラーがあれば、是非試してみたいですね。
おしゃれのお手本は?
高田純次さんはコメディアンですけど、いつもお洒落で良いものを着てますよね。
日系銀行営業担当
鈴木歴さん
スーツを着こなす時に気遣っている点は何ですか?
とにかくジャストサイズのものを着るということです。最近はここ数年のトレンドである比較的細身のスーツを着ています。あとは、その日のスケジュールや気分によって、シャツとタイの色、組み合わせを考えています。 私が気をつけているのは「捨てるタイミング」です。ある程度の年数が経つとヨレた感じが出てしまうので、毎年1、2着買って同じ数を捨てるようにしています。
気に入っているブランドはありますか?
SHIPSです。吊るしでも自分の体型に合うことと、シルエットへのきめ細かいこだわりやトレンドを微妙に取り入れている所が気に入っています。
テーラーメードはしたことがありますか?
本格的なオーダーは試してみたいのですが、なにせ値段が……
おしゃれのお手本は?
スーツに限らず、所ジョージさんは自分のライフスタイルが服装で表現されていて格好いいと思います。
日本での最近のトレンドは?
従来の3つボタンから、2つボタンが復活の兆し。シルエットは相変わらず細身です。シャツはレギュラーカラー、靴はロングノーズが流行っているようです。
マハラジャ・カスタムテーラーズ(Maharajas Gents&Ladies Custom Tailors)
信頼のビジネスがモットーのボブ氏は、誠実な価格とサービスが自慢。男性だけでなく、もちろん女性のカスタムメイドの服も取り扱う。ウェブサイトからオーダーするヨーロッパからの顧客も多いという。一度マハラジャでスーツを作ると、15年間記録が残り、日本に帰国になったとしてもEメールで再オーダーすれば、日本へ届けてくれる。 旅行者等急ぐケースは 最短24時間でスーツを作り上げるとか。急いでも仕事に妥協はしないというボブ氏。マンダリンホテル内というわかりやすいローケーションも嬉しいが、急ぐ場合は、ホテルやオフィス迄生地見本を持って採寸や仮縫いに訪問してくれるというのも忙しいビジネスマンにはありがたいサービス。
#01-12A, Orchard Hotel Shopping Arcade, 442 Orchard Road 238879
TEL:6737-6474
E-mail:info@maharajas.com.sg
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.070(2006年03月20日発行)」に掲載されたものです。
文= 桑島千春