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新たなファン層の開拓へ、進化し続けるシンガポール・ターフ・クラブ

シンガポールでギャンブルと言えば、マリーナ・ベイ・サンズのカジノを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、競馬を楽しめる場所もあるのをご存知でしょうか。MRT南北線のクランジ駅近くにあるシンガポール・ターフ・クラブの競馬場では、週に2回の頻度でレースが開催されています。2013年の熱帯綺羅でも一度紹介したターフ・クラブ、当時からの変化として、オンラインで馬券を買えるようになったことなどが挙げられます。今回は新たな競馬ファンの獲得に向けた、ターフ・クラブにおける新しい取り組みなどについて取り上げたいと思います。

 

レースの所要時間は約2分。各馬は猛スピードでコースを駆け抜けます。

 

レースは週に2回開催
世界各国で放映

クランジに競馬場が完成したのは1999年。現在レースは、毎週金曜日夜と日曜日午後の2回行われており、今回金曜日のレースにお邪魔してみました。

 

最初のレースが始まるのは午後6時過ぎ。6時前くらいになると、多くの中高年の男性がクランジ駅から競馬場に向かう姿を見ることができます。入場料は、競馬場の建物の1~2階にある一般向けエリアが6Sドル(カード払いの場合、現金の場合は8Sドル)で、30Sドルで3階のラウンジ席にも入場でき、食事などを楽しみながら観戦できます。建物の上階は結婚式や会議などにも利用されており、3階より上はVIP席になるためドレスコードが設けられています。Tシャツやサンダル着用では入れないのでご注意を。

 

レース前に各馬は観客の前を歩きます。観客はこのときの馬の様子も見ながら、どの馬に賭けるのか決めるそうです。
上階にはドレスコードが設けられています。

 

馬券は賭け方によって一口2~5Sドルから購入でき、4連単や4連複(1~4着の番号を予想する方式、4連複は着順を問わない)があるなど、そのシステムには日本と違いがあります。

 

レースが始まると、1階は入場者でごった返します。新聞とペンを握りしめた中年男性がスクリーン前に集まりレースに見入る様子は、日本の競馬場とどこか似ています。国は違えど、競馬に熱中する人達の心理は共通なのでしょう。

 

この日に行われたのは9レース。出走からゴールまでの時間はわずか2分で、ゴールが近づくと観客席からは大きな歓声が上がり、会場は盛り上がりを見せました。またレースの様子はオーストラリアやニュージーランド、英国、南アフリカなど世界各国で放送されており、海外の競馬ファンからも注目されています。

オンラインでの馬券購入が解禁
若者や家族連れにもアピールを

一見すると、2013年当時からあまり変わっていないようにも見えるこの競馬場、実はさまざまなところで新しい取り組みが行われています。具体的には、2015年に自動券売機が導入されたこと、また2016年にターフ・クラブがシンガポール内務省からオンライン賭博の免許を取得したことで、一般の人がインターネットを通じて馬券を買えるようになったことなどが挙げられます。オンライン賭博を完全に禁止することが、逆に賭博のアンダーグラウンド化につながるとの懸念から、例外的にサッカー賭博や競馬などに限り、オンラインで馬券を購入することが認められました。ターフ・クラブの担当者によると、近年の不景気の影響もあってか、現在の入場者数は1日あたり約7千~1万人と伸び悩んでいるそうです。よってオンラインでの馬券購入を通じた、客層の拡大が期待されています。

 

一方、来場者を増やす試みも行われています。現在、競馬場を訪れる人の多くは中高年男性なのが現状。ターフ・クラブでは、「競馬=中高年男性のためのギャンブル」というイメージを払拭し、競馬場を若者や家族連れでも楽しめる場所にすべく、レースの日に合わせてコンサートを開催するなど、よりエンターテイメント色を高めるための工夫をしています。

 

スクリーンの前に集まる来場者たち。
レース当日に開催されているコンサートの様子。

 

このほか2014年には新しい厩舎が完成し、設備も新しくなりました。現在では約1,300頭の馬がおり、一般向けの見学ツアーも行われています。馬に直接触れられることなどから、観光客からも人気があるのだとか。さらに2019年からは、新たに2種類の国際レースがスタートする見通しであるなど、ターフ・クラブは海外のファンも増やしながらレース内容をさらに充実させる方針を掲げています。

 

新たなファン層を開拓し、シンガポールの競馬界をこれまで以上に盛り上げるべく、改革に向けたさまざまな取り組みを続けるターフ・クラブ。クランジの競馬場は、今後の変化が楽しみなスポットのひとつと言えるのではないでしょうか。