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最新テクノロジーを活用した シンガポールの博物館教育

近年シンガポールを訪れる人は、新しい美術館が次々にオープンし、博物館で新しい展示会が数多く開催されていることに驚いているようです。2015年にはナショナルギャラリーがオープンし、2016年にはシンガポールビエンナーレも開幕(2017年2月26日まで)。この季節のシンガポールではあらゆるアートが花開いています。

 

約30年以上前からシンガポール政府は「ルネッサンス・シティ・プラン(RCP)」という文化事業政策を行ってきました。シンガポール国民が豊かになったこともあり、政府は国立のアーツカウンシルなど文化支援のための組織を複数設立、国際交流の活性化など文化事業の発展を促すためにさまざまな努力をしてきました。その1つが博物館教育です。

 

ナショナルミュージアムでは、鑑賞者は最新テクノロジーを通じて楽しみながら学ぶことができる。

 

実際に体感する博物館教育「スクールツアー」

ルネッサンス・シティ・プランでは(1)シンガポールの芸術・文化分野に活気をもたらす(2)観客基盤を構築する(3)芸術家と芸術団体をプロ化する(4)芸術のハブとしての評価を高めるという4つの課題が掲げられていました。「観客基盤の構築」としては「スクールツアー」と呼ばれる体験形式の教育が多く行われています。

 

午前中やお昼前に、シンガポール博物館などの博物館や美術館へ出向くと、スクールツアーで訪れている小学生の団体に遭遇することがあります。学校と博物館の間で事前に日程や人数などを調整し、通常は10名の生徒に1人の割合でガイドまたはファシリテーターがつきギャラリーを見学します。博物館側はモデルコースをいくつか用意していることが多いのですが、学校側と相談してコースを決める場合もあります。見学時には生徒とガイドのやりとりも活発に行われ、一般鑑賞者もその様子を暖かく見守ります。さまざまな意見交換をしながら、彼らはスタッフたちから「博物館での鑑賞の仕方」を学んでいきます。


スクールツアーに参加中の日本人小学校チャンギ校生徒の皆さん。ボランティアガイドの説明を熱心に聞いていた。

 

博物館教育の最先端はあらゆる技術を集結

2016年12月、ナショナル・ミュージアムに日本のウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」の「Story of the Forest」がオープンしました。この展示はシンガポール建国時に統治を行ったウィリアム・ファーカーが、動植物の生態記録の為に中国人画家に書かせた「ファーカー・コレクション」を元に制作されています。鑑賞者は美しい展示を眺めながら、建国時にファーカーが実際に見た風景を疑似体験します。そして無料ダウンロードができるアプリでその生態系の詳細を知ることができます。「Story of the Forest」がオープンする前にも、シンガポール博物館にはファーカー・コレクションのコーナーはありました。「Story of the Forest」が完成したことで鑑賞者は単なる鑑賞から、最新技術を使った「疑似体験との行き来」を経験することができるようになりました。シンガポールが目指す、新しい博物館教育のモデルケースの1つが完成したといえます。

 

展示に関わったチームラボ・アジア地域担当ディレクターの竹井卓哉さんは「この作品の中に身体ごと没入する体験を通して、この国の歴史や自然に興味を持ってもらえたら嬉しい」と話しています。

全ての人が楽しめる博物館教育を目指して

ナショナル・ミュージアムをはじめシンガポールの博物館では、公用語であるマレー語、標準中国語、英語、タミール語の4言語のほか、日本語、韓国語などさまざまな言語のパンフレット、またはガイドツアーがあります。

 

チームラボのアジア地域担当ディレクターの竹井さん。
ナショナル・ミュージアムの日本語ボランティアガイドの皆さん。通常ガイドは平日10時半から実施。

観光産業が主要産業であるシンガポールは「あらゆる国の人が展示を楽しんでほしい」という考えを博物館教育の原点にしています。また、この国の歴史、文化、芸術が国内だけに止まらずアジア全体、世界全体とどのように関わってきたかを分かりやすく展示することが、子供達を始め博物館を訪れる全ての人の交流・相互理解に繋がると考えています。こうした姿勢からは、日本も見習うべきところがあるのではないでしょうか。