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「魚生」で祝う、シンガポールの旧正月

今年も旧暦の正月である春節が1月28日から始まります。世界中を見渡すと、新暦(グレゴリオ暦)の新年を祝う国や地域が圧倒的に多い中、現在でも中国や香港、シンガポール、台湾、韓国、ベトナム、モンゴルなどの国では旧暦で新年を祝う慣習があります。

 

代表的な魚生の盛り合わせ。お金や健康にまつわる縁起の良い調味料や食材を厳選している。レストランやホテルで魚生を注文する場合、50~100Sドルが相場で、お店や具材の内容、人数によって値段が大幅に変わる。(画像提供:Marriott Singapore)

 

またそれぞれの国で独自の祝い方があり、シンガポールには同僚や友人、親族が集まり、縁起を担ぐために「魚生(ユーシェン/Yu Sheng)」と呼ばれるサラダ料理を食べる習慣があります。魚生の具材に込められた意味や、近年のトレンドなどに迫ってみました。

 

魚生の具材に込められた意味

魚生とは、大皿の上に胡瓜や人参、大根、生姜など野菜の千切りと生のサーモンを彩りよく盛りつけ、その上にピーナツ粉やごま、ワンタンを揚げて作ったクラッカーをまぶした料理のこと。食べる直前にサラダ油や胡椒、シナモンやプラムなどで作った甘酸っぱいソースをかけ、それらを混ぜながら食べるのが一般的です。

 

その具材すべてに意味が込められており、サラダ油は金運と幸運の流れを良くするとされ、プラムソースは財運を、胡椒は円満な笑顔を表しています。また油で揚げたワンタンの皮は黄色く光っているように見えるため、黄金を意味しています。

 

また中華圏では、生の魚(刺身)のことを「魚生(ユーシェン)」と呼びますが、この魚生の響きにはとても縁起がいい意味があります。魚生の「ユー」という発音が中国語の「余」という文字と同じことから「余りある豊かさ」を、「シェン」は「升」の発音と同じことから「上昇する・昇進する」という意味があるといいます。

周りが汚れるほど幸運に

食べる時は、皆が一斉に立ち上がり「ローヘイ!ローヘイ!」と言いながら、箸で具材をかき混ぜながら高くすくい上げ、その年の願い事を言ったあとで賑やかにいただきます。みんなが同時に箸でかき混ぜるため場が一気に盛り上がり、お皿のまわりは飛び散った野菜や粉でいっぱいになりますが、周りが汚れるほど幸運になるとされています。

 

「ローヘイ」という言葉は漢字で「撈起」と表記しますが、これは「すくい上げる」という意味の広東語。箸で野菜や生魚をすくいあげる動作は、魚を釣り上げる動作に例えられ、「たくさん釣り上げる=大漁=お金に恵まれる」という意味があります。

 

金融業界で働くレイチェル・テオさんに旧正月の過ごし方について伺ってみると、「家で親族が集まるときは、魚生はもちろんのこと、お鍋を囲みながら近況報告や新年の抱負に関する話で盛り上がります」とのこと。魚生はやはり欠かせない料理のようです。

 

親戚一同が会することの多いシンガポールの旧正月。魚生を囲んで盛り上がることも多い
一斉に具材を持ち上げ「ローヘイ!」と叫ぶ

 

魚生の近年のトレンド

魚生による新年の験担ぎは、今ではシンガポールの旧正月では定番の行事といえます。魚生は、今から数十年ほど前にシンガポールで働いていた中国本土の料理人達が考案したとされています。縁起の良い食材を集め、見た目も美しく旧正月に相応しいひと皿を生み出した料理人の想いが、今もシンガポールでは引き継がれ大切にされています。

 

最近では、スーパーで販売されている「魚生セット」を自宅やオフィスで食べることも増えてきたようです。また最近のトレンドについて、魚生の人気店「四川飯店」で広報を担当するマリエ・ゴーさんによると、揚げたサーモンの皮をトッピングするのが人気だそうです。また富裕層の間では、ロブスターや牡蠣を使った豪勢な魚生が人気なのだとか。

スーパーで売られている魚生

家族や親戚が大勢集まって過ごす旧正月に、みんなで大皿を囲んで一斉にお箸を持ち上げて「ローヘイ!」と叫ぶことで、「今年もいいことがありそう」と気持ちを新たにすることができそうです。シンガポールの文化をより深く知るためにも、今年の旧正月は赤色の洋服を着て、家族や同僚と魚生を囲みながら、近況報告や世間話で盛り上がってみてはいかかでしょうか。