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メイド・イン・シンガポールのインディーズ映画

物価高を日々実感するシンガポールで、比較的安価に楽しめる娯楽といえば映画。毎週さまざまな映画が公開され、日本では未発表の作品も上映されることから、映画館に足を運ぶのが楽しみという方も多いことでしょう。映画館で公開される映画は、ハリウッド映画などメジャーな作品が大半を占めます。しかし、映画を楽しめる場所は映画館だけではありません。最近、徐々に認知度が高まってきているのがオンライン動画配信サイト。そして、このような動画配信サイトは、少ない予算で映画を制作する独立系の制作会社が、世界へ自作の映画を配信するプラットフォームとしても重要な存在となりつつあります。

 

インディーズ映画を制作するクリエイター「BananaMana」

シンガポールを拠点にオリジナル映画を自主制作する「BananaMana(バナナマナ)」も、動画配信サイトで映画を公開するクリエイターです。今から3年前の2013年、俳優でもあった、アメリカ生まれのクリスチャン・リー氏とオーストラリア生まれのジェイソン・チャン氏が、アジア人によるアジア人が主役の、英語による映像映画を制作しようと、ドラマ『What Do Men Want』を製作したことが始まりでした。同氏らも登場する13エピソードから成るこのドラマは、シンガポールの一大メディア、MediacorpのChannel5で放映され、2014年にはアメリカ・ロサンゼルスで行われたWeb配信動画を対象とする「LA Web Series Festival」でドラマシリーズのディレクター部門賞を受賞しました。

 

 「BananaMana」創設者のジェイソン・チャン氏(左)とクリスチャン・リー氏(右)。スクリプト作成やキャスティング、編集まで全てを行うが、両人とも映画に出演するなど俳優としても活躍中。来年3月10日~12日、SCAPEで行われるイベント「All In! Young Writers Festival」ではスピーカーとしても登場する予定。ジェイソン・チャン氏はアメリカのTVドラマシリーズ『パワーレンジャー・ニンジャストーム』でグリーンレンジャー、ワタナベとして出演していた

しかし彼らは「自分たちの作りたいものを自由に制作し、伝えたいメッセージをより多くの人に届けたい。人々の気持ちが明るくなるような映像を作りたい」という熱い想いから自費制作に切り替えます。そして、自ら制作した映画を動画共用サイトで配信することにしました。2015年に制作しVimeoで配信した映画『Perfect Girl』の製作費は1,000Sドルのみ。撮影の多くはチョンバル界隈とスタジオ兼自宅で行われたそうです。しかしながら、これだけの低予算で制作した映画だとは信じがたいほど、クオリティの高い仕上がりとなりました。

沖縄とシンガポール、ふたつの国を繋ぐ恋物語
『ジーマーミー豆腐』

「私達は観る人々の気持ちを鼓舞し、感動を与える映画作りを目標としているんです」と語るBananaManaのリー氏。そんな彼らが現在制作しているのは、沖縄とシンガポールが舞台の映画「JimamiTofu(ジーマーミー豆腐)」。ジーマーミー豆腐とは沖縄の郷土料理のひとつで、ピーナッツが原料の豆腐です。映画はこの料理を中心に、シンガポール人シェフであるライアンと日本人料理評論家のゆき、そして沖縄の人々との交流が描かれたラブストーリーとなっています。

 

映像には沖縄料理はもちろんのこと、私たちに馴染みのあるシンガポール料理も登場します。映画は現在、沖縄県の助成金を受けて制作真っ只中。来年2月に行われる予定の沖縄県主催のイベントで公開され、その後ネット配信、また日本とシンガポールを結ぶ飛行機のインフライト上映も予定されているそうです。「沖縄料理はシンガポールから来た自分たちには非常に独特ながら、どこか東南アジア、そして慣れ親しんだシンガポールの料理にも共通点があることに大変驚きました」(チャン氏)。映画のストーリ―構成を練るために初めて沖縄を訪れた2人でしたが、美しい沖縄の自然を見て回る間に、映画の構成もほぼ決まったといいます。

 

現在制作中の映画『ジーマーミー豆腐』のワンシーンより。映像には沖縄の美しい景観と料理が数多く登場する(写真提供:BananaManaFilms)

 

そして、主人公のゆき役のキャスティングを行うためにインターネットで応募をかけたところ、あっという間に約150人もの応募が来ました。オーディションもスカイプで行い、素晴らしい俳優をキャスティングできたそうです。
予算の限られるインディーズ映画の立ち位置は決して楽ではありません。しかし、オーディションをスカイプで行うなど、インターネットの発展のおかげで様々な場面で予算を抑えることが可能になりました。「人生は一度きり。それなら、自分の好きなことをやりきるまで」とクリスチャン氏とジェイソン氏。世界各国の人々がネット配信を通じて彼らの映画を楽しむようになるのも、そう遠い未来の話ではないでしょう。

 

撮影で使用する愛用のカメラ、SONY A75Ⅱ。今回の撮影でも大活躍したという
『ジーマーミー豆腐』の撮影現場。沖縄での撮影は今年の10月と11月に行われた(写真提供:BananaMana Films)