AsiaX

現代に息づく伝統の灯 中秋節の夜を彩るランタン

Main-2春節、端午節と並ぶ中華圏の三大節句のひとつ、中秋節。毎年旧暦の8月15日で、今年は9月15日に当たります。この中秋節を祝う上で欠かせないのがランタン(灯籠)。中華系の民族が人口の70%強を占めるシンガポールでも、この時期は街のあちこちでランタンが飾られたり、また出店で売られたりしています。中秋節のシンボルとも言えるランタンには、どのような由来があるのでしょうか。

 

闇を遠ざけ、光明を与える象徴

 日本にも「中秋の名月」という言葉がありますが、旧暦の8月15日は1年で最も月が美しく輝くとされ、中華圏でも中秋節に家族団欒の食事をし、月餅を食べながら月見をするという習慣があります。

 

電気のない時代、暗い夜に月を見るため、夜道を照らすランタンは人々の必需品でした。それが後世に伝わり、中秋節のシンボルとなったと言われています。また、人々は夜道だけでなく家の中でも灯籠に灯をともし、明かりを得ていました。このことから、暗闇という恐れを払うランタンは、悪霊を退け福と光明をもたらす象徴であると考えられるようになったのです。

 

 

この時期は家にランタンを飾る家庭も多く、チャイナタウンのパゴダ・ストリート界隈ではさまざまな形のランタンを売る出店が多く見られます。ランタンは形によってさまざまな意味があり、例えば、蓮の花や魚の形のランタンは、「蓮(Lian)」と「連」、「魚(Yu)」と「余」の発音がそれぞれ同じことから、「連年有余」(年々お金に余裕ができる)という意味があります。加えて蓮の花は中に種がたくさん詰まった実をつけることから「多子多福」の象徴としても縁起がよいとされているそうです。

パゴダ・ストリートで8年間、土産物屋を営んでいるマーカスさんによると、最近では新しいタイプのランタンも登場してきたようです。「以前は紙で作られた伝統的なランタンが主流でしたが、今ではアニメのキャラクターを模ったものが子供たちに人気です。安全面も配慮し、ロウソクを使わない電灯式のものが多くなってきました」(マーカスさん)。

後世へ伝統を繋ぐツールとしても活用

 日本でランタンというと、先に紹介した軒先に吊るすサイズ、または手に持てる程度のサイズを思い浮かべますが、中華圏ではモニュメントのように大きなもの(花燈)もランタンの一種。中国や台湾などでも中秋節にはこれらが登場する盛大なランタンフェスティバルが行われています。
シンガポールで大規模なランタン飾りが見られる場所と言えば、MRTチャイナタウン駅近くのユートン・セン・ストリートや、サウスブリッジ・ロード。この界隈では年ごとに趣向の違うランタンが飾られ、夜になると幻想的な雰囲気に包まれます。
今年は中秋節の起源と歴史の再発見がメインコンセプト。中秋節の由来とされている、弓の名手であった羿(げい)とその妻である嫦娥(じょうが)の悲恋の故事がモチーフのランタンが多く飾られています。このランタンフェスティバルを主催するクレタ・アヤ-キム・セン市民諮問委員会(Kreta Ayer – Kim Seng Citizens’ Consultative Committee)によれば、このイベントを通じて伝統文化を後世に残したいという思いがあるといいます。
実際に今年の見所である12メートルの嫦娥を模ったランタンは、南洋芸術学院(Nanyang Academy of Fine Arts : NAFA)の学生たちによってデザイン・制作がなされました。参加した学生の1人、チュア・ジアホンさんは「この活動を通して、今まであまり馴染みのなかった中秋節の由来についてより深く知ることができました。伝統的なランタンにLEDライトという新しいテクノロジーを融合させたことで話題性も高く、若い世代の興味を引くきっかけにもなると思います」と語ってくれました。
また同委員会は6歳から16歳までの子供たち約500人が参加する大規模なランタンデザインコンテストなども開催しており、中華圏だけでなく他の文化圏の子どもたちにも広く参加を呼びかけています。このようにランタンは祭りを彩る飾りとしてだけではなく、昔の伝統を今に伝えるツールとしても積極的に活用されているのです。
街を華やかにライトアップするランタンにも、軒先に吊るされているランタンにも、昔ながらの文化や人々の願いが込められています。これらに思いを馳せながら、今年の中秋節は月とともにランタンを愛でてみてはいかがでしょうか。