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日本語教育と日本文化体験の拠点として24年 シンガポール日本語補習授業校

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小学部2年生の国語の授業。「どんなことを書いたらいいかな?」観察した事柄を文章にするときの注意点をみんなで検討中。

豊かな緑に囲まれた、シンガポール日本人学校小学部クレメンティ校。休業日である土曜の昼過ぎ、校舎の一角が子供たちの声で賑わいます。ローカルスクールやインターナショナルスクールに通う、日本国籍を有する子供たちが日本語と日本文化を学ぶ貴重な場、シンガポール日本語補習授業校の登校日です。

 
「英語や中国語で学校生活を送る我が子に、なんとか日本語を学ばせたい」という保護者の熱意で、母親が先生を務める手作りの補習校が生まれたのは1992年。児童・生徒数16名、日本人会の一室を借りてのスタートでした。1994年に日本国政府から正式に補習校として認可され、翌年には日本人学校小学部クレメンティ校の一部を借りることができ、移転。1996年、シンガポール政府からも正式な学校として認められて以来、本格的な補習校として歴史を刻んできました。在籍児童数はほぼ一貫して増え続けており、今年度の在籍児童・生徒数は小学部1年生から中学部3年生まで計333名と過去最多。現在、アジア最大規模の日本語補習授業校となっています。

「教員と保護者の熱意、子供たちの努力で成り立っている学校です」と語る補習校校長の伊藤敏一先生。

できるだけ日本の学校と同じ体験ができるよう配慮

シンガポール日本語補習授業校では、日本の小中学校で採用されている教科書を使った国語の授業を中心に、学習指導要領に準拠したカリキュラムが組まれています。しかし、年間の授業日数はわずか40日、1日3時間のみ。国語の授業時数を日本の学校と比較すると、およそ2分の1しかありません。「学年が進むにつれて覚えなければいけない漢字も増えますし、家庭学習なしでは十分な日本語力を身につけることは難しいのが実情です。しかし、子供たちは本当によく頑張っている。漢字練習や音読の宿題を日々サポートしてくださる、保護者の皆様の姿勢にも頭が下がります」(日本語補習授業校校長・伊藤敏一先生)

 
少ない授業時間をやりくりして行っているのが、日本文化を体験的に理解するうえで欠かせない学校行事の数々です。七夕集会やお月見集会など季節にちなんだ行事のほか、入学式や卒業式といった儀式的行事、運動会や書道、避難訓練の時間も。帰国時に子供たちが戸惑わないよう、できる限り日本の学校と同じような体験を、という配慮が随所に窺えます。

 

その一方、シンガポール政府に学校として正式に認可されたことにより、学校運営に課題も生じています。教員に日本の教員免許の所持が義務付けられたため、人員の確保が難しいといった問題です。「教員の多くは、ご家族の転勤に伴って来星された主婦の方なので、帰国など家庭の事情で年度途中に退職される可能性があります。一年を通じて教員の募集を行っていますが、人員が足りず、すべての入学希望者を受け入れることができないのが悩みです」(伊藤先生)

子供たちの楽しみの一つ
4,000冊の蔵書が並ぶ専用図書室

シンガポールの日本語補習授業校には、他国では珍しい専用の図書室があります。室内には、子供たちに人気の「ハリー・ポッター」、歴史や伝記、怪談など約4,000冊もの日本語の書籍がズラリ。本の貸出や返却には、図書ボランティアのお母さんたちが協力しています。
「普段の授業前後も混み合いますが、長期休みの前になると本を借りる子供たちで図書室がいっぱい。荷物も持ち込めないぐらいの混雑です」と笑うのは、図書ボランティアの樋口真理子さん。本の貸出期間は2週間ですが、1週間で読み終えて毎週本を借りていく子供たちも少なくないそうです。床に座って本の世界にのめり込む姿から、この図書室が通学の楽しみの一つとなっていることが伝わってきました。

 
小学部の授業にお邪魔してみると、先生の質問に勢いよく手を挙げる子供たちの姿が。先生に続いて教科書を音読する顔は真剣そのものです。
外国語を学ぶと同時に、日本語や日本文化に対する理解を深めることは、真の国際人として生きるための礎となることでしょう。在留日本人が増え続けているシンガポールで、日本語補習授業校の果たす役割は今後ますます大きくなりそうです。

 

補習校に通い始めて2年目の荒木さん親子。「子供たちは先生が大好きで、クラスにはお友達もいっぱい。毎週通うのを楽しみにしています」(母・美陽子さん)「勉強がよくわかって楽しい」(小2・太寿くん)「面白そうな本がある図書室が大好き」(小1・大和くん)
全学年が毎年取り組んでいる書道。心を落ち着けて題字に挑む。
シンガポール日本語補習授業校ウェブサイト
http://www.jss.edu.sg