2016年5月16日
戦時の記憶を今に伝える 地下要塞「バトル・ボックス」
当時の面影を可能な限り残し、歴史を忠実に再現
1945年に第二次世界大戦が終焉したのちこの要塞は封鎖され、歴史の表舞台から姿を消していました。しかし1988年にストレーツ・タイムズ社のジャーナリストの調査によって再びその存在が明らかとなり、リノベーションの後、一般公開されることになりました。しかし2012年に前オーナーの賃借権切れにより再度封鎖され、今年の2月に改めて民間会社Singapore History Consultantsにより一般公開されることとなりました。現在、バトル・ボックスへの立ち入りはガイドツアーのみ。説明や映像を交えながら、1時間ほどで施設全体を見て回ります。
入り口の扉を進むとすぐに、地下へと続く階段が現れます。一段一段踏み進めるごとに、冷房のためだけではない、どこか湿ったようなひんやりとした空気に包まれます。
地上から約9メートル下に位置するこのバトル・ボックス内には、無線室や暗号室、空気浄化室など全部で29もの部屋があります。重要な部屋では蝋人形によって当時の様子が再現されており、当時の雰囲気を感じることができます。日本への降伏を決めた瞬間を再現した会議室では、苦渋の選択を迫られたパーシヴァル中将の苦悩が伝わってくるようでした。
「通信機などの道具はもちろん、壁やドアなどもできる限りそのままにしてあります。当時の面影が残っていることこそが、この施設の価値なのです」と歴史学者でありツアーガイドも務めるアイゼン・テオさん。その言葉通り、通信室の壁には傍受した言葉をメモ書きしたと思われる、「山下将軍」や「パーシバル」といった文字が今も残されていました。
今後はさらにリニューアルを重ね、最新の映像技術も取り入れながらより開かれた場所にしていく予定だといいます。「我々はこの施設のツアーを通じてどちらが善い、悪いということを言いたいのではありません。当時、何が起きたのかという事実を客観的に伝え、訪れる人の判断材料にしてもらいたいのです」(アイゼンさん)。
ツアーの時間など詳細はHPを参照。www.battlebox.com.sg
この記事は、シンガポールの日本語フリーペーパー「AsiaX Vol.302(2016年5月16日発行)」に掲載されたものです。
取材・写真:長島 清香