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消えゆくブギスのランドマーク 「ロチョー・センター」

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ロチョー・センターの外観。4色のカラフルな建物が特徴的だ。

MRTブギス駅近くにあるロチョー・センター。公営住宅のほか、多くの店舗やクリニックなどが入居しており、赤、青、黄、緑のカラフルな色合いが印象的です。シンガポール住宅開発庁(Housing and Development Board: HDB)によって1977年に建設されたこの建物は、地元のランドマークとして住民から長く親しまれてきましたが、高速道路「ノース・サウス・エキスプレスウェイ」の建設に伴い、今年中に取り壊されることになっています。高層ビルの建設も進み、古くからあった建物が失われつつあるブギス地区。ロチョー・センターに住んでいる人や店を構えている人たちは、今どのような思いを抱きながら日々暮らしているのでしょうか。

 

変わりゆくブギスの風景

1990年代にショッピングモールのブギス・ジャンクションが完成するなど、近年はファッショナブルな若者たちも多く集まるエリアになったブギス地区。ブギス・ストリートも、多くの土産物店などが立ち並ぶシンガポール有数のショッピングスポットに生まれ変わり、観光客を含め、連日多くの人で賑わっています。ブギスにはMRT東西線に加え、昨年12月に開通したMRTダウンタウン線も通っており、交通の利便性もさらに高まっているといえるでしょう。
またシンガポール都市再開発庁(URA)は、2008年に発表したセントラル・ビジネス・ディストリクト(Central Business District:CBD)開発計画で、ブギス地区を挟むように東西に伸びるオフィアロードとロチョーロード沿いの地域を、金融・ビジネスの拠点としての新たな成長エリアに位置づけており、オフィスビルやホテル、住宅などを整備する方針を掲げています。ロチョー・センター近くでは、都市再開発プロジェクトとして地上49階の住宅棟やオフィス、商業施設などで構成される複合施設、通称「DUO」が建設されています。

 

居住部分にはまだ多くの人が住んでおり、1階には賑わっている店舗も多い。
階の店舗スペースに上がると一気に人気がなくなる。店の多くがすでに移転しており、その様子はさながら日本のシャッター街のようだ。

移転するにも賃料が高い、住民たちの苦悩

ロチョー・センターの取り壊しが発表されたのは2011年。HDBによると、かつて同施設には180以上の店舗が入居していましたが、現在は70ほどにまで減っているようです。敷地内を歩くと、シャッターの閉まった店舗が多く、すでに移転したところも多いことが張り紙からも分かります。1階のフードコートには、まだ営業中の店もたくさんありますが、2階に上がると一気に人気がなくなります。取り壊す直前ということもあってか、壁の塗装が剥がれているなど建物の傷みも目立ちます。
取り壊しに伴い、居住区に住んでいる人の多くは政府に充てがわれたカランの公営住宅に引っ越すことになり、6月頃にかけてここを立ち退く人はさらに増えそうです。ロチョー・センターに3年住んでいるというジョナサンさんも、6~7月にカランへ引っ越す予定といいます。ただ、「職場に近くて便利なので、ここに引っ越してきた。住み慣れたロチョー・センターを離れるのはやはり惜しい」と残念さを隠せない様子です。

 

ジョナサンさんによると、カランとここではあまり家賃は変わらないとのこと。さらに深刻なのは団地に住む人たちより、ここで店を構える人たちなのかもしれません。なぜなら、店の移転先を自分で探さなければならないからです。またロチョー・センターのオフィス賃料はシンガポール中心部にありながら他所に比べて低く、どこに移転するかは残った店にとって悩ましい問題のようです。「7月に立ち退く予定だが、まだ移転先は決まっていない」と、1階で電気店を10年以上経営してきたというリーさん。「移転しようにも、どこも賃料がここよりずっと高い。しかし取り壊しが決まった以上、私達にはどうすることもできない」と淡々と話します。2階で携帯用品ショップを営むタンさんによると、移転にあたり1店舗あたり3万Sドルの補助金が支払われるそうです。それでも、賃料の高いシンガポールでは不十分ではないかとタンさんは話します。

 

街の発展のために古い建物を壊し、住民が立ち退きを求められる、日本でもある光景ですが、住民へのケアも大切と改めて感じさせられます。シンガポールの経済成長や街の発展を「光」とするならば、ロチョー・センターにはその「影」の部分が表れていると言えるのかもしれません。

 

 

ロチョー・センターから見たブギス。複合施設「DUO」の建設工事が進んでいる。完工は2017年の予定。