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古き良き時代を残すショッピングセンター 「ビューティーワールド・センター」

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ビューティーワールド・センターはMRTビューティーワールド駅出口の目の前にある。
向かい側のチョン・チン・ナム・ロードは飲食店が複数並んでおり、こちらもにぎわいを見せている。

 

昨年12月27日に開通した、島の中心部から北西部に伸びるMRTダウンタウン線の第2期区間(ブギス駅~ブキ・パンジャン駅)。それまで付近にMRT駅がなかったシックス・アベニューやアッパー・ブキティマの住民からは、シティまでの交通の便が良くなったと大いに歓迎されています。

 

新設された駅を見ていると、アッパー・ブキティマ地区に地名でもなく観光施設名でもない「ビューティーワールド(中国語表記:美世界)」という駅名が目に入ります。一体どんな美の世界が広がっているのか、気になって実際に駅を降りてみると、飲食店が軒を連ねたショップハウスが建ち並んでいるほか、「ビューティーワールド・センター」というショッピングセンターなどにその名称が使われているところ以外、ごく普通の街並みです。なぜ「ビューティーワールド」と呼ばれているのか、どうやらこのセンターの名前に所以がありそうですが、施設内もネイルサロンやマッサージ店が数店入居しているだけで、クリニックや日用品店の老舗などがほとんど。その答えは、同センターの歴史にありました。

 

「ビューティーワールド」誕生の歴史

日本軍がシンガポールを占領していた第二次世界大戦中、現在のビューティーワールド・センターがある一帯には、映画館やダンスホールなどが入居する「グレーター・イースト・アジア(大東亜、ダ・ドン・ヤ)」という遊園地がありました。戦後、破損状態になってしまったその土地は再開発され、1947年に食料品や日用品が揃う市場が誕生します。その際、地主だったギアム・コックエン氏が、娘の名前にあった「美」と当時の娯楽施設でよく使用されていた「世界」を組み合わせて英語に訳し、「ビューティーワールド・マーケット」と名付けました。

 

市場は人気を博し、規模は徐々に拡大。1960年代には出店数が100店舗以上となり、その一帯は「ビューティーワールド・パーク」と呼ばれるようになりました。しかし、拡張に伴って火事や電気のトラブル、付近で渋滞の発生といった問題も増加。それを受けて、個人事業者が集う施設「ビューティーワールド・センター」の建設が計画され、1984年に完成すると、パーク内にあったほとんどの店舗が同センターへと移転することになりました。

センター内を案内してくれたマネジメントオフィスのトーマス・テオさん(写真右)とスー・ホックフィーさん(写真左)。
写真中央は、同センターを管理する不動産企業ナイト・フランク社(Knight Frank Estate Management)のアルフレッド・ウーさん。
「シンガポールの古き良き時代を感じられるので、たくさんの日本人の方にも訪れてもらいたい。
現在、日本食店など日本にまつわる店舗がほとんどなく、出店などビジネスの相談も受け付けています」(トーマスさん)

地元住民から愛される、昔ながらの雰囲気を大切に

IONやマリーナ・ベイ・サンズにみられるような、現代的で個性のある建築デザインが主流となったシンガポールのショッピングセンター。築年数を重ねたセンターは取り壊しや改装が行われ、情緒あふれる雰囲気は徐々に失われつつあります。しかしビューティーワールド・センターは、屋根の修理やエレベーターの設置など、必要最低限の改装は行っているものの、タイルなどの内装はそのままで、開業当時から入居する店舗も複数あります。同センターのマネジメントオフィスのトーマス・テオさんは、「ふと昔を思い出したくなる時ってありますよね。ここはそんな懐かしさを感じる憩いの場です。子供のころから長年訪れているという地元の人々も多くいるので、この昔ながらの雰囲気はこれからも保ち続ける予定です」と話します。

吹き抜けになっているセンター中央部。近年はリトル・コリアと呼ばれるほど、韓国人オーナーのレストランやショップ、スクールが増えている。

トーマスさんイチオシのセンター内スポットは、なんと屋上。そこには長年変わらない美味しさを良心価格で堪能できるホーカーセンターがあります。また、アッパー・ブキティマの閑静な住宅街の眺めが良いほか、シンガポールで最も標高の高いブキティマ・ヒルを擁するブキティマ自然保護区への歩道橋も整備されています。

 

MRT開通後、昔訪れたことがある場所で子供の頃を思い出してみたいと足を運ぶ人や、駅周辺にあるローカル料理を目当てに訪れる人が増えたことで客足が大きく伸びたビューティーワールド・センター。若い購買層を増やすため、新しいカフェやブティックをオープンさせつつも、地元住民の憩いの場であり続けようと努力しています。アクセスが便利になったこの機会に、少し懐かしいシンガポールを垣間見に出かけてみてはいかがでしょう。

 

ホーカーセンターがショッピングモールの屋上にあるというスタイルはめずらしい。