AsiaX

都会のそばで、自然の中に遊ぶ贅沢

朝靄の漂う静かな水面に熱帯雨林の緑濃い木々と空に広がる雲が映り込む静かな風景。やがて、雲の切れ間から朝日が差し込み、英語でAngel’s Ladder(天使の梯子)と呼ばれる光がカーテンのように降り注ぐ――こんな風景がシンガポールにあったことに、思わず息を呑んでしばし呆然。はっと我に返って、夢中でシャッターを切りました。

堤道の上からロウアー・ピアス貯水池を望む。朝日が雲間から差し込み、光のカーテンが降り注いできた。

 

高層ビルがひしめくシェントンウェイや、ショッピングセンター、ホテルが立ち並ぶオーチャード、あるいはショップハウスが軒を連ねるチャイナタウンなど、シンガポールといえばやはり人々で活気に溢れる「街」のイメージ。そんなシンガポールにも自然保護地区が実はいくつもあり、人々が自然に触れることのできる公園が整備されています。

今回訪れたのはそのひとつ、アッパー・ピアス・リザーバー・パーク(Upper Peirce Reservoir Park)。ロウアー・ピアス貯水池(Lower Peirce Reservoir)と、アッパー・ピアス貯水池の境目にあります。両貯水池の周辺の一帯が自然保護地区として保護・管理されています。

パーク内には野生のサルの姿も。人に慣れていてすぐ近くまでやって来る。食べ物をあげると罰金の対象になるのでご注意を。

アッパー・ピアス・リザーバー・パークの入り口にある看板。パーク内は車で乗り入れ可能。

 

ロウアー・ピアス貯水池は、シンガポールで2番目に作られた貯水池で、1912年に上水道用水の供給を開始しました。当初はカラン・リバー貯水池と呼ばれていましたが、1901年から16年間技師としてシンガポールに貢献したロバート・ピアス(Robert Peirce)氏の功績を称えて、1922年にピアス貯水地と名前が変わりました。

1910年代のシンガポールの人口は30万人程度でしたが、その後シンガポールが発展するにつれて人口も増加、1950年には100万人を突破し、シンガポール独立後の1968年には200万人を超えました。この急速な人口増に対応するため、ピアス貯水池の奥により大きな貯水池が作られることに。3年の歳月をかけて1975年に完成したのが、現在のアッパー・ピアス貯水池です。それに伴い、ピアス貯水池はロウアー・ピアス貯水池と名前が変わりました。

この二つの貯水池は、シンガポールで一番古い貯水池であるマクリッチ貯水池や、昨年11月に完成したマリーナ・バレッジなどとともにシンガポールの重要な水源として機能しています。

アッパー・トムソン・ロードとヨーチューカン・ロードが交差する地点からオールド・アッパー・トムソン・ロードへ入り、道なりに進んでいくと、左手にアッパー・ピアス・リザーバー・パークの看板があります。ここが入り口で、奥へ続く道を終点まで進んでいくと、駐車場と芝生のスペースがあり、その向こうにアッパー・ピアス貯水池が大きく広がっているのが見えてきます。

オールド・トムソン・ロードからアッパー・ピアス・リザーバー・パークまでの道は、トライアスロンや自転車、マラソンのトレーニングに励むアスリート達の姿も。 二つの貯水池の境にある堤道は、シンガポール屈指の名門ゴルフ場、シンガポール・アイランド・カントリー・クラブのコースのすぐ近くまで続いています。この堤道の上から眺める二つの貯水池の風景はそれぞれ違う表情をしていて、特にアッパー・ピアス貯水池側の風景は、熱帯雨林の樹木が織りなす深緑色と、空と雲が織りなす青と白のコントラストが水面に美しく映えて、街中の喧騒とはまるで別世界のような静けさ。堤道の上をのんびり散策する人、ジョギングする人、水辺のベンチで新聞を広げる人、みな穏やかな顔で、思い思いに過ごしています。

堤道の上は、水辺の美しい景色を楽しみながら走るランナーの姿も多い。背後のグリーンはSICCのコース。

 

週末の朝、少し早起きしたら、一度訪れてみてください。目の前いっぱいに広がる自然の風景の中で深呼吸すると、身体中がリフレッシュされますよ。

 

参考情報

シンガポール国立公園

公益事業庁(PUB)

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