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マレー半島生まれの果物の王様「ドリアン」

タクシーを掴まえて、ドアを開けるなり「シンガポールで一番美味しいドリアンが食べられるお店を探してるんです」と告げると、ドライバーのおじさんはまったく動じることなく「OK」と手招き。やがてたどり着いたのは、ゲイランエリアのシムズ・アベニュー(Sims Avenue)沿いでした。

ストールの店先にも店内にもずらりとドリアンが並ぶ様は、この時期のシンガポールの風物詩。

 

タクシーを降りて、さっそくすすめられたストールへ。テーブル席があり、切ってもらったばかりのドリアンをすぐに食べられるお店でした。おすすめのドリアンの種類を尋ねると、マウンテン・キャット(猫山王)が一番、その次がD24。マウンテン・キャットは程よい甘さとなめらかさがあり種が小さい、D24も甘くてクリーミーだが種が大きい、とのことでした。

美味しいドリアンを見分けるポイントはまず鮮度。ほとんどの店ではシーズン中は毎日のようにマレーシアから新鮮なドリアンを入荷しています。軸を見比べれば、新しいものと入荷から数日経過したものとの差は意外とわかりやすいようです。すぐに食べるなら皮の色が鮮やかな緑色のものより茶色がかったものを。手にとって軽くゆすってみて、コトコトと音がするものを選ぶと良いそうです。

とげに覆われたドリアンの皮は厚くて硬いので、かなり頑丈なナイフが必要。ドリアンを選んだら、その場でお店の人に割ってもらい、中身に問題が無いか確認します。持ち帰り用には果肉だけを取り出してパック詰めにしてもらうこともできます。ただし、電車やバスなど公共交通機関へは持ち込み禁止なのでご注意を。

大きなとげの付いた分厚い皮をカットすると、中には鮮やかな黄色の果肉が。

 

ドリアンにまつわるエピソード

ドリアンはマレー半島原産のフルーツ。ドリ(duri)はマレー語で「とげ」の意味。名詞形を作る接尾語のアン(an)が付いて、直訳すると「とげがあるもの」。ドリアンの木は高さ10~30メートルほどで、実は木の上部に付き、熟れるとココナッツと同様自然に落下してきます。「果物の王様(king of fruit)」と呼ばれるドリアンですが、一説によると精が付く果物として王様が好んで食した、あるいは美味しいけれど嫌いな人も多いことから、「王様の果物(fruit for king)」という呼び方もあるようです。

シンガポール人、特に中国系の人達がよく言うのが、ドリアンはとても”heaty”で、食べると体が熱くなるということ。バランスを取るために、体を冷やす果物を一緒に食べます。おすすめは「果物の女王」と言われるマンゴスチンや西瓜など。ココナッツジュースも体の熱を取るのに良いそうです。

店先でカットされたばかりのドリアンをその場でほおばるのが一番美味しい食べ方。

 

ドリアンにまつわる話で有名なのは「ドリアンとお酒を一緒に摂ると死に至る」というもの。東南アジアの広い範囲でこの話は信じられていますが、科学的根拠は無いようです。実際にハツカネズミにドリアンとアルコールを与えるという実験を行った科学者が、1969年に医学専門誌『シンガポール・メディカル・ジャーナル』に論文発表し、「まったくの迷信」と結論付けています。それでも、40年経った今もなおこの話がまことしやかに語り継がれているのは、ドリアンを食べ過ぎた時にお腹にガスが溜まったような膨まん感や、強烈なにおいのげっぷに悩まされた経験を持つ人が多いからかもしれません。

ドリアンを食べた後に指に残った匂いを取るには、ドリアンの殻に水を入れて洗うと良いと言われていますが、これは本当に効果があるようです。塩をひとつまみ入れると更に効果的とのこと。そのための塩を用意しているお店もあります。手を洗う際にドリアンの種を持って石鹸を泡立てると良い、という話もありますが、これに関しては意見が分かれるようです。

今回訪れたのはゲイランエリアでしたが、美味しいドリアンが食べられるエリアは、ブギス、チャイナタウンのほかシーズンには臨時の露店も多数出ています。ドリアンの旬は通常6月~7月と12月頃。そろそろ前者のシーズンは終盤ですが、まだ数週間はシンガポールのあちこちでドリアンがずらりと並ぶ光景が見られます。3回、あるいは5回食べなければその本当の美味しさがわからないと言われるドリアン。マレー半島ならではの味に一度はトライしてみては。

店先でカットされたばかりのドリアンをその場でほおばるのが一番美味しい食べ方。