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獅子の国で見る勇敢かつ華麗なる舞

高さおよそ2メートル、直径わずか数十センチの鉄製のポールが何本も並び、その上をきらびやかな獅子がダイナミックに舞い、跳ね回る、ハイ・ポール・ライオン・ダンス。中国語では「高椿」あるいは「梅花椿」 とも呼ばれます。「高椿」は、元々中国武術のカンフー(功夫)で鍛錬のために用いられる鉄柱。その上で獅子を舞わせるというアクロバティックなハイ・ポール・ライオン・ダンスは、1980年代にマレーシアで火が付き、世界各地へ広まっていきました。

 

(写真1〜3)

太鼓や鉦、銅鑼などの打楽器の小気味良いリズムに合わせて、2頭の獅子がポールの上でパフォーマンスを繰り広げる。

ライオン・ダンスの歴史

ハイ・ポール・ライオン・ダンスの前に、伝統的なライオン・ダンス、すなわち中国獅子舞の歴史を少し覗いてみましょう。

中国獅子舞の歴史は、2000年以上前、前漢の時代までさかのぼると言われています。獅子はそもそも中国大陸には生息していない動物。西域からシルクロードを経て中国へ伝わり、その勇猛さが皇帝たちに気に入られて、邪を払い福を招く瑞獣のひとつとされました。書道や絵画、彫刻などのモチーフにも用いられ、その動きを真似た舞が獅子舞として広まっていったようです。

現在の中国獅子舞は清代に確立されたもので、揚子江から北の華北地方で盛んな北方獅子舞と、広東省など華南地方で盛んな南方獅子舞と大きく二つに分けられます。北方獅子舞は、玉乗りやシーソー台での演技など雑技的な要素を取り込んでいるのが特色。また、雄と雌の獅子や子供の獅子も登場し、柔らかく優雅な動きもあります。一方、南方獅子舞は、功夫が基礎となっていて武術館によって伝授されてきただけあり、その動きは男性的でダイナミック。東南アジアは華南地方からの移住者が多かったこともあり、南方獅子舞が主流です。

常に進化するハイ・ポール・ライオン・ダンス

南方獅子舞を「高椿」の上で舞ってみせることから始まったハイ・ポール・ライオン・ダンスは、伝統芸能としての要素に加えてアクロバティックなところが人気を呼び、1980年代にマレーシアで盛んになると、瞬く間にシンガポール、インドネシアなどの東南アジア各国へ広まり、さらには中国本土、香港、北米、オセアニアと世界各地に広まっていきました。マレーシアのゲンティン・ハイランドで2年に一度世界大会が開催されているほか、各国・地域での大会も数多く開かれています。

シンガポールでも、毎年9月初めにニー・アン・シティでライオン・ダンス大会が開催されています。シンガポールには世界大会やアジア大会で上位に入る強豪チームがいくつもあり、レベルの高いパフォーマンスが見られるとあって、毎年多くの観客で賑わっています。

そんな強豪チームのひとつ、南仙龍獅體育会(Nam Sieng Dragon & Lion Dance Activity Centre)のベンとショーンは、シンガポール代表として国際大会への出場経験もあるペアで、結成して5年。週4回、毎回5時間の練習で技を磨いています。仕事もしながら多くの時間と体力を練習に費やすのは大変なのでは、と尋ねると、2人とも「面白いからまったく苦にならない」とのこと。自分達で考えたという振り付けによるパフォーマンスは、床の上だけで舞う通常のライオン・ダンスと異なり、ポールの上を目まぐるしく移動し、時には後足役のショーンが前足役のベンを担ぎ上げて獅子が立ち上がったように見せたり、2人息を揃えてポールからポールへ大きく何度もジャンプをしたりと、ハードな動きの連続。ダイナミックな動きの合間には、前足で何かを探るようなしぐさをしたり、耳をパタパタさせたり、眉を動かしたり、と様々な動きで獅子の表情をまるで本当に生きているように見せます。太鼓や鉦のリズムに合わせて、一連の踊りの流れの中でそれぞれが役割を果たしながら互いの動きをシンクロさせ、一頭の獅子になりきるのです。

「ハイ・ポール・ライオン・ダンスはスタイルが自由で、いろんな事が試せる。これからも新しい技や振り付けでお客さんを驚かせたいし、喜んでもらいたい」と語るベンと横で穏やかにうなづくショーン。このペアをはじめ、シンガポール中のチームが2010年はどんな進化形を見せてくれるのか、今から楽しみです。

シンガポール代表にも選ばれたこともあるベン(左)とショーン(右)のペア。

昨年9月ニーアンシティで開催されたライオンダンス大会での南仙チームの演技。夜空をバックに色鮮やかな獅子が「高椿」の上を舞った。