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未来のガーデンシティ体現、Fusionopolis@one-north

Fusionopolis@one-north 人、自然、技術の共生へ

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5Fのスカイガーデンから見上げたフュージョノポリス。手前の楕円形の球体の中にシアターがあり、その外壁には、建物を出入りする人をセンサーが察知し色をかえるLCD照明装置がある。

 

MRTブオナビスタ駅から南に広がるエリア約200ヘクタールの土地が、知的創造産業や国際研究開発事業推進のための住、働、学、遊のハブを目指す「ワン・ノース(one-north)」へと着実に生まれ変わっています。ワン・ノースはシンガポールの一大国家プロジェクトであり、権威あるプリツカー賞を受賞し世界的に知られるイギリス在住の建築家ザッハ・ハディド女史によってその都市計画が作られました。2001年に始まったこのプロジェクトは、JTCコーポレーションの開発のもと、15年から20年を経て完遂される予定で、現時点では、既存のシンガポール国立大学周辺の学術機関の充実、生物化学研究施設のバイオポリス(Biopolis)の完成、情報通信、メディア、科学技術の官民協働の拠点としてのフュージョノポリス(Fusionopolis)の第1フェーズが完了した段階にあります。

既にメディア開発省(MDA)やシンガポール科学技術研究(A*STAR)のオフィスや研究施設を抱え、カフェやショッピングセンター、最上階にはスポーツクラブも併設するフュージョノポリスは、建築家の故黒川紀章氏が建築デザインを手がけました。円柱を4分割したような22~24階建ての双子タワーが、スカイ・ブリッジと5階から12階にかけて位置する楕円形の構造物で繋がっています。ワン・ノースの開発地域一帯を見下ろすように立つその建物は、総ガラス張りでフューチャーリスティックな外観であると同時に、自然、技術、機能が上手に調和するように様々な工夫がされています。ほんの一例を挙げると、最新鋭のIT設備はもちろん、建物内の温度の上昇を防ぐために、視界を損なわない遮光ステッカーがガラス窓に貼られていたり、観葉植物をたっぷりと配した13ヵ所の屋外スカイガーデンは、憩いの場であると共に、ビルの放射熱や輻射熱を押さえる役割を果たしていたりもするのです。

ドリアンに勝るとも劣らない“卵”、Genexis Theatre

外から見ると、2つのタワーの真ん中の、まるで宇宙船のようにも見えるこの楕円の球体の中には、2009年にプレジデントデザインアワードを受賞したジェネシス・シアター(Genexis Theatre)があります。このシアターの内部、そして外にあるフロント・オブ・ハウス(Front of House)という待ち合いスペースの設計を任されたのが、シンガポール国内外で数々のプロジェクトを実現し、世界的な建築賞も受賞しているWOHAアーキテクツ。学究機関、知的創造産業に携わる人々が働き、暮らすワン・ノースで、文化芸術のパフォーマンスや数多くのセミナーやイベントを通して彼らが交わる場所にふさわしい空間となるようにデザインされました。

楕円の球体の中がシアターであることに驚くと共に、そこに施されたシアターとしての視聴覚技術やデザインの工夫にも目を見張るものがあります。シアター内には、最小のスペースに収納可能な階段式の560席のシートのほか、照明機器の下には、特殊ネットが張り巡らされ、その上を人が歩いて天井の照明の位置を自在に変えることが可能。また、楕円形のドームの壁全体には、直径6cmほどの木製ビーズがぎっしりとはめ込まれており、その数40万個。ビーズの穴を音が通ることで、音響エコーが壁に吸収されるように工夫されています。シアターの真ん中で手をたたくと、すっと音が消えるのがわかるほど。同時にマホガニーの自然の木肌が幾何学的に整然とならんだ美しさは、会場全体を落ち着いた雰囲気にしています。

音響エコーを吸収する壁全面に装着された木製ビーズ。その数はなんと40万個。

ジェネシス・シアター内部
(写真提供:JTCコーポレーション)

故黒川紀章氏設計のフュージョノポリス外観

 

そのシアターへ導くブリッジの手前に、待ち合いスペースであるフロント・オブ・ハウスがあります。2.5cmほどの厚みのある合板が一定の距離を保って整然とならび、天井から壁にかけて有機的に切り込まれた立体的なカーブの美しさに思わず息をのみます。WOHAアーキテクツが得意とする自然な木目と色を存分に活かしたデザインに、モダンな色とりどりのソファがアクセントになっています。ソファの配置とそのユニークな形がザッハ・ハディド女史によるワン・ノースの都市計画の模型にも似て、数年後のワン・ノースの姿に思いが広がります。

フロント・オブ・ハウスの待ち合いスペース