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トロピカルをぎゅっと絞る、 ミクソロジストのいるバーへ

Orgo、Organic Chemistry と言う名のバー

総合芸術施設エスプラネードの4階から屋上に出て、「ドリアン」の屋根を間近に見ながら、竹林に囲まれたコンテナの形をした鉄骨とガラスのモジュール(組み立て式ユニット)にたどり着くと、そこがOrgo Bar & Restaurant。シンガポールハーバーの美しい夜景を肴に、ここでしか味わえないカクテルやタパスを中心としたお料理が楽しめます。

Orgoとは、Organic Chemistry(有機化学)の意味。常に有機的に形を変え続けるクリエイティブの象徴としてその名前がつけられました。日本のミクソロジストの第一人者である北添智之さんのオリジナルカクテルと、可動式のコンテナ形のモジュールをデザインしたというアメリカ人のニック・イェンさんら共同経営者の思いが垣間みられます。

マンゴスチンとマスカルポーネチーズのマティーニ。フルーツの鮮度や甘みやチーズの温度など、全て計算された至福の一杯

シンガポール初の「ミクソロジスト」

ミクソロジスト(mixologist)とは、バーテンダーの域を超え、枠にとらわれない自由な素材を使ってカクテルを創作するプロのことで、飲料メーカーの製品を使ったカクテルのレシピ考案など商品開発を含めたコンサルティング的な業務も請け負います。

日本では、現在も銀座や青山にカクテルバーの直営店を4店舗経営する他、店舗プロデュースのアドバイザーや、カリスマ的ミクソロジストとして引く手数多だった北添さん。現在ではシンガポールのOrgo Barのバーカウンターでその時間とエネルギーのほとんどを費やします。北添さんは、果物やハーブを中心としたフレッシュな素材でカクテルを作るため、その旬と鮮度へのこだわりから、日本では果物店を経営するほど。「シンガポールでは、日本では手に入りにくく、高価なトロピカルフルーツがいつでもふんだんに使えるのが嬉しい。ただし、アルコールは高めなので、日本と逆ですね。」という。カクテルは、人工の着色料や香料、市販のジュースは一切使わず、お酒も上質なものをと、ウォッカならフランス製のプレミアムウォッカを使用。その柔らかな味わいが、新鮮で爽やかな果汁に馴染み、上品な味わいのマティーニを生み出します。日本では、洋酒メーカーのブランド大使や、エルメスやアルマーニのイベントなどのためのシャンペンに変わるカクテルを考案した経験も豊富な北添さんは、シンガポールでのカクテルの新しい可能性を広げてくれそうです。

日本で20年のバーテンダー経験をもつミクソロジストの北添智之さん。ミクソロジスト第一人者の北添さんのカクテルを直々に楽しめるのも、シンガポールならではです

 

ミクソロジスト北添さんのこと

宮崎県出身の北添さんは、俳優志望で上京した後、国際バーテンダー協会の副会長を長年務め、世界的に知られる銀座の老舗バーのオーナー澤井慶明氏のもとで1990年から修行を積みました。その後、イタリアンシェフなどの経験や、バーテンダーとしての更なる研鑽を経て、ミクソロジストとなりました。北添さんが師と仰ぐ澤井さんは、シンガポールにバーテンダーの学校を開いたこともあるそう。「それがシンガポールという国を認識した最初かも」としながら、澤井さんが北添さんに最初に作ってくれたモスコミュールが、ロイヤルセランゴールのピューター製のマグに入っていたことも縁だったのかな、と回想します。

当面の目標は、「Orgoをシンガポールで一番と呼ばれる店にする」こと。現在、近隣諸国への出店計画もあるものの、人材育成がビジネスの成功に欠かせないという北添さんは、まずは一流のサービスを提供できるスタッフを育成中。「40才になったら海外に店を持つという目標を、良きパートナーに恵まれてシンガポールで叶えることができたのも、日本の店を十分任せられるスタッフがいてくれたからなんです。」と語る。

日本に残している家族のためにも、世界一のミクソロジストを目指すという北添さん。念願のニューヨークへの出店も目指しつつ、その挑戦は続きます。

いちごとミントの葉がまるごと入った爽やかなマティーニ

可動式コンテナ型のモジュール内。エアコンの効いたプライベートダイニング