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デザインと遊び心のあるチョコレート「Chocolate Research Facility」

薬箱のような引き出しが壁一面に並び、カラフルなデザインの小箱が整然と陳列された白い長テーブル。一見、何かのショールームのようであり、ドラッグストアのような店構えの「Chocolate Research Facility」(CRF)は、チョコレート研究所と言う名のチョコレートショップ&カフェ。110種類ものチョコレートが楽しめるCRFは、実は、2009年にシンガポールの大統領デザイン賞を受賞したクリス・リー率いるデザイン会社Asylumによって経営されています。

「Chocolate Research Facility」の店内。右奥がカフェ。天井からとろけるチョコレートの内装もなかなかのアイディア。

 

ショップのコンセプトは「ラボ(研究所)」

「チョコレートは、その品質がとても高級なものから、手頃な大量生産のものまで多種多様。自分も含めて、チョコレート好きは、たいてい色んな種類や味のチョコレートを試したいと思うもの。それで自分がショップを持つなら100種類のフレーバーのチョコレートを揃えようと考えました。」とクリスさんはいいます。商品開発には自らも関わり、チームで考えた季節毎の新しいフレーバーのアイディアを基に、パティシィエが実際のチョコレートにしたものを何度も試食しながら最終調整。新しいシリーズがローンチするまで、約6ヶ月ものリサーチ期間を費やし、シンガポールにて商品化されます。例えば、カカオ豆の原産地に拘ったConnoisseurシリーズは、10カ国からの異なるカカオ豆を61%から76%の濃度のダークチョコレートで、人気のあるアルコールシリーズは,ライチマティーニ、シャンペン、コニャック、ティア・マリア等7種、その他フルーツ、ナッツ、コーヒーシリーズなどもあります。変わり種は、エキゾチックシリーズで、四川ペッパー(花椒)、あずき、チーズ、いちごヨーグルトなども。チョコレートは全て70グラムの定型のチョコレートバーで、シリーズ毎に統一されたパッケージデザインで分別されています。チョコレートロット番号や、材料よって微妙に異なる賞味期限などが記載され、まさに生真面目なラボ感覚のチョコレート。世界でもここにしかないチョコレートもあり、おみやげに買い求める人が多いというのも納得です。

カラフルで個性的なグラフィックデザインが施されたパッケージ。空き箱をコレクションするファンがいるというのも納得。

チョコレートに詳しいフレンドリーなフタッフ。ここでは彼らの事をモデレーターと呼ぶ。

シンガポールのデザイン・グルの甘い野望

2010年の春夏シリーズとして新しくデビューしたのが「Cities Series」。その名の通り、世界各都市らしいユニークなフレーバーのチョコレートが勢揃い。シンガポールはドリアン風味のミルクチョコレート、東京はサクラ風味のホワイトチョコレート、ニューヨークはプレッツェル入り、バンコクはトムヤム風味、ウォッカ入りのチョコレートはもちろんモスクワ、など、パッケージもその都市の地図をデザインにした小粋なものです。季節毎に発表される新作といい、毎回テーマ毎に異なるデザインを纏うチョコレート達。まるでファッションの世界にも通じますね、という問いに、クリスさんもニヤリ。お店の真ん中の白い長テーブル、実はキャットウォークのランウェイに似せているんだとか。シンガポールのフレッドペリーの総代理店を務める等、デザイナーとしてだけでなく、プロデューサーとしても一流の手腕をふるう彼らしい仕掛けがそここにあるのを発見するのも、お店を訪れる楽しみのひとつです。

そのコンセプトやパッケージデザインは、広告デザインの権威ある賞として世界的に知られるD&AD LONDONや、 One Show New Yorkで受賞し、CRFを世界に知らしめ、今や20カ国からフランチャイズや出店の招きもあるほど。今後は焦らずじっくり考えますと笑うクリスさんに、”Las cosas claras y el chocolate espeso.”(アイディアはクリアに、チョコレートは濃くあるべきだ)というスペインの諺がふと浮かびます。世界に進出する新たなシンガポール・ブランドとしての可能性を十分秘めていることは、いうまでもありません。

チョコレートに合うちょっと濃いめのコーヒーをオリジナルのマグで。チョコレートをモチーフにしたグッズも販売している。