AsiaX

エンターテイメント産業に直結。デザイナー育成の現場「FZD」

スターウォーズIII、ターミネーター、ニンジャタートルなど、ハリウッドを代表するSFX映画はもとより、数々のビデオゲームのビジュアルやコンセプトデザインを手がけたフェン・ズー(Feng Zhu)さんが、エンターテイメント産業におけるデザインを自ら教えるのが2009年7月に開設したばかりのFZDスクールオブデザイン(FZD)。今年6月に初めての修了生を輩出したばかりだが、彼らの完成度の高い作品はもとより、それぞれ国内外の著名なビデオゲーム会社や関連メーカーなどへの就職を決め、話題となっている。エンターテイメント・デザインという、今後も需要が見込める収益性の高い産業と直結した分野ながら、一流のデザイナーとして認められている人材は、世界的に見ても決して多くない。ハリウッドでも通用するデザイナーを育てるというアジア初のデザインスクール、FZDを紹介する。

下の学生によるペインティング作品を、フェン・ズーさんによるアートディレクションのもと、全体の構成と光加減を改良するためにペイントし直した作品。

 

クリエイティブ産業の促進に一役

クリエイティブ産業の東南アジアのハブを目指すシンガポールは、各種美術学校、デザインスクールなどの教育面に力を入れてきた。認知度が上がる等、一定の成果はあるものの、今後は、世界に通用するプロの育成がシンガポールの目標であり、FZDが目指すところでもある。

FZDのエンターテイメント・デザイン学科は、フルタイムのディプロマコースで1年間、「世界に通用する経験と実力をもつ指導者から、ハンズオンで実践に即したトレーニング」を受ける。また、「我々は、講師というよりもアートディレクターであり、生徒をジュニアデザイナーと位置付けています。彼らは、在学中に実際製品化されるプロジェクトに少なくとも2、3件は関わり、即戦力として自分を証明できるプロファイルを持って卒業します」とフェンさんは説明した。

FZDをシンガポールに開校した理由は、やはり政府からの強力なサポート体制と意欲にあった。当初ゲームデザインの会社設立を考えたが、ローカル市場に十分な能力のあるデザイナーがいないことのリスクは大きいと判断、アメリカの著名デザインスクールで指導した経験を活かしてデザインスクールを開校することにしたという。

FZDプロフェッショナルサーティフィケートコースの学生作品(日系ビデオゲーム会社勤務)、PhotoshopとWacomタブレットを使用したペインティング。

「自分が仕事を選び、仕事に自分が選ばれることなかれ」

フェンさんは、デジタルゲームが登場した90年代に育ち、建築、プロダクトデザインを学んだ後、LAを拠点として、数々の映画、ゲーム、コマーシャル、フィギュアなどのデザインを手がけ、スティーブン・スピルバーグ、ジェームズ・キャメロンらと直に映像デザインの仕事をする等、若くして高収入を得ながら成功を納めた。そのキャリアが頂点に達して以降、教育の現場に立つ事も増え、次世代に関わることを考え始めたという。現在はフリーランスの仕事をしながら、FZDの代表を務めている。

FZDの入学者数は毎期20名前後。3名の講師とともに少数精鋭がモットーだという。生徒は、美術学校出身やゲーム会社のデザイナーとしての経験を持つ人も多いが、以前から描く事が好きだったものの自活のためにシェフとして働いていた、という全く未経験の人もいる。1年間で、アイデアを具象化する素描、ペンタブレットなどデジタルツールの使用法、課題解決のアプローチ法、デジタルマットペインティングなどの技術の他、業界のビジネスの仕組みも同時に学ぶという。

「自分が仕事を選び、仕事に自分が選ばれることなかれ」と、フェンさんは一流のプロを目指す生徒達へ期待を込めて言葉をかける。また、あらゆる経験を大きなマーケットで積んで欲しいことから、チャンスがあれば欧米や日本での就職をすすめている。

欧米からのFZD入学希望者も増えている現在、シンガポールから世界に通用するクリエイティブのプロが多数生まれることで、次世代のクリエイティブ産業の世界地図にそのプレゼンスを示すきっかけになるだろう。

FZDスクールオブアーツ創設者でデザイナーのフェン・ズーさん。

FZDスクールオブアーツの学生作品の展示。スケッチから緻密に描き込まれた作品の数々。