AsiaX

ナショナルデーにひも解く建国の歴史「シンガポール国立博物館」

1965年の建国から今年で45年を迎えるシンガポール。シンガポール共和国としてはまだ若い国ですが、この小さな島は、14世紀以降700年ものカラフルな歴史を持ち合わせています。そんなシンガポールの歴史をひも解くと、新たに知る歴史的事実、シンガポールを形成する多民族の人々が織り成すさまざまなストーリーに出会えるでしょう。8月9日のナショナルデーに寄せて、世界的にも例を見ない展示設備とユニークな構成で歴史の世界に誘うシンガポール国立博物館の歴史ギャラリーを訪れてみませんか。そこで垣間見たシンガポール建国期のストーリーをご紹介します。

シンガポール国立博物館内歴史ギャラリーの中。このコーナーには、建国期のシンガポールの様子を伝える展示がずらりと並ぶ。リー・クワンユー元首相の独立宣言のビデオもある。

1965年8月9日、失意と決断の独立宣言

45年前のこの日、シンガポールの独立を発表するリー・クアンユー氏のテレビ中継がありました。国民に独立への決断を伝える、その失意に満ちた氏の表情をつぶさに納めたビデオを歴史ギャラリーで見る事ができます。

イギリスからの完全独立のため、悲願だったマレーシアとの合併を1963年に果たして2年、そのマレーシアからほぼ追放される形でシンガポールは独立の道を選ぶことになりました。華人の住民が8割を占めるこの国が、マレー系住民を優遇するマレーシア中央政府の政策に追従することの難しさ、民族間の暴動勃発などを受け、度重なる交渉をマレーシア中央政府のトゥンク・アブドル・ラーマン首相と行うも、決裂に終わったのです。

「私にとって、今は苦渋の時です。生涯、私は2つの領域の合併と統一を信じてきました。(中略)私リー・クアンユーは、自由と正義の原則、多くの人々の福祉と幸福の探求、平等な社会を築く事に基づき、本日1965年8月9日にシンガポールが永久に主権民主主義並びに独立国家である事を宣言致します」と、中継の最中には、感極まって言葉につまり、涙をみせ、20分間会見を中断する場面も。が、この日を境にリー氏は、同胞の政治家たちと一丸となって天然資源の欠乏や水源の乏しさ、国防能力の脆弱さという国として根本的な課題をひとつひとつ解決しながら、多民族の融合政策をはかり、資本主義経済を邁進させてきたのです。リー氏の統率力、徹底した合理主義、目を見張るスピードで建国期をのりこえた日々の政治活動も、歴史ギャラリーで目の当たりにできるでしょう。

シンガポール国立博物館外観。1887年に開館したシンガポールで最古の博物館。白い壁にナショナルデーの赤いバナーが映える。

シンガポール国立博物館外観。1887年に開館したシンガポールで最古の博物館。白い壁にナショナルデーの赤いバナーが映える。

1960年代、文化とライフスタイルの興隆

シンガポールが独立を果たした1965年前後の60年代は、特に現代のシンガポールの文化を知る上でも大事な時代でもあります。1959年6月の総選挙で人民行動党が圧勝し、自治政府下でリー氏がシンガポールの初代首相に就任すると、独立への気運も一気に高まり、人々の感情にも東南アジアに暮らす自らのアイデンティティーの確立がなされていきました。同じ年、音楽家のズビール・サイード(Zubir Said)氏が、シンガポールの国歌「マジュラ・シンガプーラ」を作曲し、今でもマレー語で歌われています。

人々の生活を垣間見ると、レインボーカラーのサロンクバヤなどのファッション、マレー映画の興隆や雑誌などの流行、家電製品の浸透、当時一世を風靡したハウパービラや、「ワールド」というネオンで飾られた遊園地など新しい娯楽も誕生し、独立への政治的な不安とは裏腹にカラフルで豊かになっていった時代でした。当時に思いをめぐらすと、独立国家として歩むリー氏を間接的に力づけて励まし、経済成長を後押ししたのは、よりよいライフスタイルを望み始めていたシンガポール国民自身だったのかもしれません。

現在、シンガポール国立博物館で企画展として開催されている「Singapore 1960」展では、1960年代当時の様子が300もの展示品とともにつぶさに感じることができます。

 

歴史ギャラリー@シンガポール国立博物館

シンガポール国立博物館では各種企画展のほか、ファッションや食文化などにスポットを当てた「ライフスタイルギャラリー」と、歴史的に貴重なシンガポールの財産や、史実に関わった人々のインタビュービデオなどの映像を擁した「歴史ギャラリー」を常設。今回注目の歴史ギャラリーでは、歴史上の出来事を軸とした順路と、歴史に生きた人々を軸とした順路いずれかを選び、日本語対応の視聴覚ガイド機器「コンパニオン」を伴って展示を見学します。コンパニオンは、単調な解説に留まらず史実をドラマチックに語る切り口で、往時を五感で感じることができるのが特徴です。