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アルミの輝きをラタンバスケットに変える光のマジック「Dhoby Ghaut Green」

MRTドビーゴート駅の南側、ペナン・ロード沿いのバス停との間のスペースに、アルミニウムの無機質な光を放つ、近未来的な雰囲気を持った大きなオブジェを持つ公園が、2009年10月24日にオープンしました。ドビーゴート・グリーンと名付けられたこの公園は、シンガポール各地に点在するナショナルパークのひとつ。都市再開発庁(URA)による「公共スペースと都市部ウォーターフロントに関するマスタープラン」(Public Space and Urban Waterfront Master Plan 2003)の一環で、シティエリアの中で人々が集える空間として開発されました。

日没直後の宵闇に浮かび上がったドビーゴートグリーンのアンフィシアター。ラタンバスケットをイメージしたデザインであることがわかる。

 

駅の出口から右ななめ方向に続く小道と背の高い樹木に囲まれた空間には小石が敷き詰められていて、約250人収容のイベントスペースとして利用できます。また、オブジェを挟んで反対側にも、ペナン・ロードから見通せる芝生の広がる広い空間があります。こちらは約1000人収容可能とさらに広く、ゲームなどよりアクティブなイベントも行えるスペースになっています。

アルミ製円盤オブジェの正体

公園の中央部に位置する、アルミニウムの円盤のようなオブジェの正体は、実はアンフィシアター(円形劇場)。デザインを手がけたのは、2006年に大統領デザイン賞(建築・都市デザイン部門)を受賞したチャン・スーキアン(Chan Soo Khian)氏です。アンフィシアターの中に入ると、階段状になっている観客席が、前方のステージをぐるりと囲む形になっています。約250名収容の観客席もステージも、コンクリート打ちっぱなしのシンプルなつくり。観客席に腰を下ろして頭上を見上げると、アルミニウムの細い板が幾重にも重なった部分とその上部の木製のキャノピーが覆いになって、日陰を作ってくれています。晴れている日には、空の青さと無機質なアルミニウム、キャノピーの木の質感とのコントラストが、アンフィシアター内の空間に不思議な落ち着きをもたらしています。

日中のアンフィシアター。アルミニウム板が光を反射し、近未来的な姿を見せる。

 

このアンフィシアターの形状は、シンガポールをはじめ東南アジア各地でおなじみの籐を編んで作ったラタンバスケットにヒントを得たもの。と言っても、昼間のアンフィシアターの無機質なアルミ二ウムの輝きを見ていても、あまりピンと来ないかもしれません。西の空のビルの谷間に太陽が姿を隠し始める頃、夕闇の中でアンフィシアターのあちこちに照明が灯り、シアターをぐるりと囲ったアルミニウムの板や木製のキャノピーを照らし始めます。照明に照らし出されたキャノピーがアルミニウムの板に映りこんで、アンフィシアター全体が温かみのあるやわらかいオレンジ色に輝き出します。その状態で外側からアンフィシアター全体を眺めると、ちょうどラタンバスケットのように見えるのです。

アンフィシアターの照明コンサルティングを担当したのは、日本の照明デザイン会社ライティング・プランナーズ・アソシエーツ。前号で表紙の人として登場した葛西玲子さんがシンガポール事務所の代表を務めています。このプロジェクトには、URAとデザイナーのチャン氏の希望で同社が参画。葛西さんにプロジェクトへの取り組みについて伺ったところ、「籐のかごをイメージした建築の意匠に光を一体化させ、構造物を引き立たせるために演色性(光の色の質)の良い光を丁寧にしつらえて、周辺環境を美しく整えるよう工夫しました。シアターという非日常的な空間としてではなく、MRTが交差する賑やかな場所であることを象徴し、市民が気軽に集ってアクティビティが常に起きている、そんなイタリアの広場のような場所として街の一部となると良いと思います」とのこと。

アンフィシアターは、普段は2つのイベントスペースとともに一般に開放されています。放課後に訪れて友達とおしゃべりを楽しむ学生や、観客席上段に腰を下ろして語り合うカップル、仕事の合間の休憩がてらランチボックスを広げる人など、思い思いに過ごしている人々の姿が見られます。また、週末などには地元アーティストによる演劇や音楽のライブ公演なども開催されています。

都会の真ん中に生み出されたこの開放的な空間で、シンガポールの都会人たちが集い、どんなことが起きるのか、これからも楽しみです。

アンフィシアター全体を覆うアルミニウムの細い板。幾重にも重なり、ラタンバスケットの網目のよう。