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「光の祭典」ディーパバリを彩るThe Deepavali Street Light Up

毎年10月頃になると、リトルインディアの中心部に見事な光のアーチが登場します。インドでも最大級のお祭り「ディーパバリ(Deepavali)」を祝うストリート・ライトアップです。インドの神様や花、動物などをあしらったカラフルで華やかな光のアーチの列は、セラングーン・ロードをブキティマ・ロードと交差する地点から北上し、ラベンダー・ストリートと交差する地点までの約2kmにも及びます。

アーチ中央に描かれているのが豊穣と幸運を司る女神ラクシュミ。4本の腕を持ち、蓮の花の上に座って左側の腕に壷を抱え、右側の手からは金貨があふれている。縁起が良いとされる象が一緒に描かれることが多い。

シンガポールでは、カンポン・グラムとゲイラン・セライで「ハリラヤプアサ」、チャイナタウンで「中秋節」、オーチャード・ロードおよびその周辺で「クリスマス」、そしてこの「ディーパバリ」をテーマとした4つのライトアップが毎年実施され、国内だけでなく海外からの観光客にも人気があります。シンガポールでは、マレー語、中国語、英語、タミール語と4つの公用語があり、それぞれの言語を母語とする民族の大多数が信仰する宗教行事や伝統行事にあわせて国の祝日が設定されていますが、ライトアップもその4つのカテゴリに対応しているといえます。多民族国家として民族間の融和を図っているシンガポールの取り組みがここにも現れているようです。

10月7日夜には、ゴー・チョクトン上級相を迎えて点灯セレモニーが行われた。

 

インド最大のお祭り「ディーパバリ」

「ディーパバリ」はサンスクリット語で、「ディーパ(deepa)」は光、「アバリ(avali)」は列の意味。ヒンディー語が広く使われているインド北部では短くした「ディワリ(Diwali)」が一般的で、タミール語などが使われているインド南部では現在も「ディーパバリ」だそうです。起源には諸説ありますが、元々は秋の収穫や、冬作物の種まきを始めることを祝うお祭りだったようです。現在、インドの各地域でも祝い方や祀る神様に違いがありますが、一番多いのはインドの二大抒情詩のひとつ「ラーマーヤナ」に由来するもの。

物語の主人公であるラーマ王子は、継母の謀略による父の言いつけで、妻シータや弟と共に国外のジャングルに追放されてしまいます。ある時、シータの美しさに目をつけた悪魔達に妻を誘拐され、ラーマ王子は妻を取り戻すために弟や猿の神様と共に悪魔達と戦い、見事に勝利しました。その後14年ぶりに国に戻ったラーマ王子を、人々が火を煌々と灯して出迎えたことから、キャンドルやオイルランプで光の列を作って祝うようになりました。また、ラーマ王子の勝利を祝福するためにたくさんの神々が集まるとされ、その中に豊穣と幸運を司る女神ラクシュミがいることから、ラクシュミ神が自分の家にも立ち寄ってくれるようにと人々は家の前に明かりを灯して菓子を供えます。

ちなみに、ラーマ王子はヒンドゥー教3大最高神のひとりヴィシュヌ神の10あるアヴァターラ(権現)のひとつとされ、その妻がラクシュミ神。つまり、シータもラクシュミ神のアヴァターラです。仏教でいう吉祥天とされます。

 

リトルインディアが一段と華やかに、ディーパバリ・ストリート・ライトアップ

この時期は祈りを捧げるために集まる人で寺院も混みあう。

 

 

セラングーン・ロードで現在のようなライトアップが始まったのは、シンガポールの独立後間もない1970年代初め。当初はシンガポール政府観光局(STB:Singapore Tourism Board)が主催していました。1999年にヒンドゥー基金局(HEB:Hindu Endowments Board)が引き継いでSTBと共同で主催するようになり、2002年からはリトルインディア小売店・歴史遺産組合(Little India Shopkeepers and Heritage Association)と行政区の自治組織である中央地区社会開発協議会(Central Singapore Community Development Council)も加わって、同時期に開催するパレードやカウントダウン・イベントなどを取りまとめています。

ストリート・ライトアップのデザインのモチーフは、繁栄や喜びを象徴する物や動物、植物などからHEBが毎年選んでいます。今年は、ディーパバリでも多く使われる「ディヤ(diya)」という素焼きのオイルランプと蓮の花、クジャクなどがデザインに取り込まれています。

ライトアップの技術コンサルタントV. R.リンガム氏は、HEBのメンバーでもあり、2000年からボランティアとしてライトアップに関わっていて、多くの人々の目を楽しませる華やかな光の装飾を演出しています。準備に取り掛かるのは毎年4月ごろ。ライトアップの準備を引き受ける業者が入札で決められると、さっそく作業が開始され、リンガム氏もデザインの微調整などの準備に多くの時間を割いて関わるそうです。

また、従来はライトアップのアーチを支えるためにコンクリートの大きな土台と発電機を持つ仮設ポールが設置されていたのですが、今年はリトルインディア周辺の道路整備が行われ、新しいポールがセラングーン・ロード沿いに設置されました。

今年のストリート・ライトアップはディーパバリ前夜の11月4日まで、毎日午後7時から深夜12時、週末の夜は午前2時まで行われています。