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都会のオアシス、マリーナ・バラージ

2008年に完成したマリーナ・バラージ(Marina Barrage)は、街中にある巨大なマリーナ貯水池の堰で、シンガポール・ハーバーからマリーナ・ベイ・サンズとシンガポールフライヤーの間を抜けて、マラッカ海峡へと繋がる玄関口にあります。20年前にリー・クワンユー上級相(現顧問相)が提唱したビジョンを具現化したもので、カラン川やシンガポール川などへ流れ込む淡水を集め、飲料水や工業用水として利用します。シンガポール川河口からお馴染みのマーライオンの目の前に広がるシンガポール・ハーバー、今や塩水でなく淡水であることは、案外知られていないかもしれません。

マリーナ・バラージのビジターセンター全景。建築デザインは、シンガポールのArchitects Team 3によるもの。長く後世に続いて行くよう願いをこめて、縁起のいい9の数字が2つ絡みあっている。(写真提供:PUB)

 

市街地のこの巨大な貯水池は、10,000ヘクタールの面積があり、シンガポールの国土の約6分の1もの大きさがあります。貯水池として全体の需要量の10%にあたる水を供給する事はもちろん、マリーナ・バラージは、チャイナタウンやシェントンウェイなどの土地の高さが低い地域への洪水を防ぐためのダムとして水位をコントロールしてます。また、今年完成予定のマリーナ・ベイのガーデン・バイ・ザ・ベイ・プロジェクトの一環として、市民の憩いの場を提供する役割も担っています。

シンガポールの水事情

東南アジアでは珍しく、水道の蛇口から出る水を飲料水として使用できる上水システムを持つシンガポール。一方で、国土の事情からシンガポールの水資源が乏しいため、一般家庭や各工場などに供給される水は、その供給源のおよそ半分を隣国マレーシアからの輸入に頼ってきました。これまで水の購入価格の値上げ交渉などに悩まされたことからも、水供給契約の期限切れを2011年と2061年に迎えるにあたり、自国での安定した水資源確保を重要な国策の一つと掲げ、あらゆる取り組みがなされてきました。

現在、シンガポールでは、水の輸入、17カ所の国内の貯水池、下廃水再利用のプラントで再生される超純水「ニューウォーター」、海水から真水を生成する淡水化プラントによる4つの水の供給源があります。2061年までには「ニューウォーター」で国内需要量の50%を、淡水化プラントからの供給で30%を賄う事を目指しています。それに貯水池からの水の供給が加われば、ほぼ自給に近い形が実現する訳です。

ビジターセンターのルーフガーデン。シンガポールの水事情に精通した親切な英語ガイドのラジクさんが案内してくれた。週末は多くの人でにぎわう。

 

マリーナ・バラージを訪ねて

ガーデン・バイ・ザ・ベイを通って、マリーナ・バラージを訪れると、全長350mの堰と30mある金属製の巨大な9つの水門、マリーナ・ベイに出入りする船舶を昇降させて堰を渡すゲートを真近でみることができます。

また、持続性のある水資源を生み出すための前述4つの水の供給源を詳しく説明したサステイナブル・シンガポール・ギャラリーがあるビジターセンターも併設されています。ギャラリーは、訪れる人がインタラクティブに展示を楽しめるように工夫され、マリーナ・バラージの模型もあり、全体の仕組みを眺める事ができます。水の供給源を確保する国の努力を伝えることもさることながら、同時に省エネや水の節約なども訪れる人にはたらきかけることもセンターの重要な役割となっています。

センターの屋上は、緑の芝生で覆われた広い庭になっていて、週末ともなると多くの人が凧揚げやピクニックに訪れる他、水に親しむことを目的とした噴水などがあるプレイグランウンドも地上階にあります。ソーラーパネルで電力を供給したり、自然光を最大限取り込む工夫をした建物の設計デザインなどもユニーク。過去に各種イベントも開催され、多くの人々にその存在が知られるようになり、週末は特に賑わいます。いろいろな種類の凧も販売するコンビニエンスショップ、中華レストラン、カフェもあるので、家族連れがゆったりと楽しめるはず。ここから眺めるシティの夜景も美しく、潮風に吹かれながら歩ける夕暮れ時に訪れるのもおすすめです。

世界の水研究・ビジネスの中心「ウォーターハブ」を目指すシンガポールは、自らの水の問題を解決していくプロセスや技術力を将来の国の強みに変えて行く最中にあります。

マリーナ・バラージは、そんなシンガポールの未来への取り組みをつぶさに見せてくれるでしょう。

バラージコーブというコンビニエンスショップでは、あらゆる種類の凧が販売されている。他に屋外シャワーなどの施設もある。