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新年への願いを筮竹に託す「観音堂佛祖廟」

旧正月前夜、日本の大晦日に当たる2月2日夜、ブギスの中国寺院は大勢の信者で賑わっていました。ここはシンガポールで最も古く、最も人気のある寺院のひとつとして知られている観音堂佛祖廟(Kwan Im Thong Hood Cho Temple)。1884年、ウォータールー・ストリートに建立され、その後何度か建て替えられましたが19世紀の中国寺院の様式はそのままで、シンガポール・ヘリテージ・ボードから文化遺産に認定されています。本堂には観音菩薩(Goddess of Marcy)が祀られており、健康や学業を司る慈母菩薩として崇められています。菩薩はサンスクリット語ではアヴァローキテーシュヴァラ(Avalokiteśvara)。もともとはヒンズー教の女神様だったとのこと。この寺院はシンガポールに住む中華系の仏教徒および道教徒の信仰を集めています。

観音堂は他宗教の人々にも門戸を開放している。

100本の観音筮に祈りを込め、陰陽で確認

龍の彫刻が施された門をくぐり、入口でお線香に火を灯して、いよいよ本堂へ。大勢の人々がひざまずいて竹ひご入りの筒を振っているため、シャンシャン、シャンシャンという威勢のいい音が響いています。竹ひごは観音筮(Kuan Yin Qian)と呼ばれる筮竹のような棒です。人生の岐路に立たされた人々が、最後の決断を菩薩に託しているそうです。

100本の観音筮が入った筒は右奥のカウンターで受け取ることができます。同時にピンク色の花びら型のお札も2枚、もらってくるのを忘れないように。

筒を両手に持ち、心の中で自分の名前と住所、年齢、そして干支を唱えます。次に菩薩に聞きたいことを念じます。たとえばあなたが転職を考えている場合は「○○という会社からのオファーを受け入れた方がいいでしょうか」というように。この質問を唱えながら筒を斜めに持って振り続けると、やがて100本のうち1本が飛び出して落ちます。次にピンク色のお札を振って一枚が表、もう一枚が裏となれば、さきに落ちた観音筮の番号はあなたの質問の答えであることが確認されます。お札は陰陽を表すものなので、両方が表、あるいは両方が裏を示した場合はバランスが崩れている、つまりさきほどの観音筮は間違った番号のものなので、筒に戻してもう一度振ります。

一心に祈りを捧げる人々。どんな思いを託しているのだろうか。

おみくじの意味を説明する専門のガイドさんもいる。

 

おみくじを解読して保身符や門符に

さて飛び出した観音筮をカウンターに持って行くと、その番号のおみくじがもらえます。英語・中国語で書かれていますが、内容は中国の故事に基づいていますから、中には難解なものもあります。

たとえば記者は以前、引っ越しを考えていた際に96番のおみくじをいただきました。書き出しは次のようなものでした。”Seven storeys high the majestic pagoda stands. In all directions it shines with glittering glow.”これは、「有名な寺院の七重の塔から全方位に光が当てられているので、どこに住んでも大丈夫ですよ」という意味でした。おみくじの詳しい説明はカウンターに置いてある手引き書に書かれています。じっくり読みたい方は購入も可。

おみくじは、読み終わった後焼却してもいいそうですが、「保身符(お守り)」として畳んでお財布の中に入れておく人もいます。または家内安全を祈願して家のドアに貼りつけておく場合は、「門符」と呼ばれます。試験の前におみくじを焼いた灰を混ぜた水を呑んで、度胸を付ける人もいるという話です。日本人のように木に結びつける習慣はないようです。

さて2月28日、観音堂は早朝4時に開門します。10¢コイン入りの紅包(アンパオ)というお年玉のようなものを、今年一年のお守りとして人々に配るのです。この日はきっとより多くの人々が集まるのでしょう。

寺院周辺に集まっている、蓮の花や果物、お線香を売る屋台風の店は、旧正月前後にいっそう忙しくなります。観音堂のすぐ隣にはヒンズー寺院の色鮮やかなゴプラムも見られますが、参拝客の多くは中国寺院でお参りした後、こちらでもお線香を上げてゆくのです。周囲には回教寺院モスクや教会も数多く点在しています。多彩な宗教がさりげなく共存しているブギスは、もっともシンガポールらしいエリアのひとつではないでしょうか。

筒入りの観音筮、ピンクのお札、そしておみくじ――3種の神器と呼んでもいいかもしれない。

この本は、古代中国の故事から引用された言葉を英語で解説している。