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回教徒の誇り「サルタン・モスク」

シンガポール最大の回教寺院として知られるサルタン・モスクは、イスラム色の濃いアラブストリートを見下ろすように建っています。ここにはシンガポール各地から信徒が集まり、コーランの響きに耳を傾け、祈りを捧げるのです。イスラム教の戒律によれば日に5回の祈祷が定められていますが、普段は職場や自宅近所のモスクで済ませる信者も、金曜礼拝には正装してこのサルタン・モスクを訪れます。ここはイスラム教徒にとっての心の聖地。そして多民族国家のモニュメントのひとつでもあります。

マレー人のほかアラブ系、インド系のイスラム教徒もこのモスクに集まってくる。

礼拝の時間中、外部の人は礼拝堂に入れない。敬虔な信者の背中に厳粛な空気を感じる。

ドームのすぐ下にはガラス瓶の底が敷き詰められており、建物にアクセントを添えている。

 

イスラム建築とコロニアル様式の折衷

サルタン・モスクは、最初に建立されたのが1824年のことでした。スタンフォード・ラッフルズ卿がシンガポール領有権を譲り受けたことに感謝の意を示して、当時のジョホール・サルタン、フセイン・シャーのために建てたのです。資金は東インド会社が調達しました。最初のモスクは煉瓦造りでしたが老朽化が進み、信者を収容しきれなくなったため、ちょうど100年後の1924年に改築されることになりました。設計を引き受けたアイルランド人建築家のデニス・サントリーが、インドやイスラム圏の建築物のエッセンスにゴシック建築様式を取り入れて建て直したのが現在のサルタン・モスクです。この東西の建築様式をブレンドさせたデザインは「インド・サラセニック」と呼ばれるもので、この時代に中東からアジア一帯で建てられた主要建築物の多くに見られます。

サルタン・モスクはシンガポール最古の回教寺院と呼ばれていますが、歴史的にはもっとも古いものの、建物自体は最古ではありません。しかしながらイスラム教徒の人々はこの美しい外観のモスクを誇りにしています。黄金色のドームが太陽の光を反射し、その先には回教のシンボルである三日月と星を掲げ、ドームを取り巻くように高い塔・ミナレットが天に伸びています。威風堂々たる建物で、その大きさにも圧倒されます。

1階は男性信者のための礼拝堂で5000人を収容可能、2階は女性のためのスペースとなっています。正面はメッカの方角に向いていますが、他宗教の寺院とは異なり崇拝の対象物はありません。モスクの原語であるマスジットは「ひざまずく」という意味。その名のとおり、人々は祈祷時間になると静かにここに集まり、ひざまずいて手を合わせたり、床にひれ伏したりして、一心に祈りを捧げる姿が見られます。

マレー文化遺産センター、イスタナ・カンポングラム

1993年にはモスクに隣接した別館も増築されました。多目的ホールや会議場があり、イスラム教の人々が宗教関連の行事に利用できるようになっています。ドームを真似た形の窓や壁の色はモスクと同じで統一感が保たれています。

またカンダハール・ストリートをはさんで向こう側にはサルタンの子孫が1990年代まで住んでいたイスタナ・カンポングラムがあります。スタンフォード・ラッフルズがサルタン・フセイン・シャーの家族の住居として建てた宮殿で、これをデザインしたのはアルメニアン教会、旧セント・アンドリュース教会、旧国会議事堂、ラオパサ・フェスティバル・マーケットなども手がけたジョージ・コールマンです。ここにはサルタン一族がリアウ諸島やマラッカなどから集まり、一時はその子孫が80人あまりも住んでいましたが、サルタンとしての地位を失った彼らは他の場所に移り、1999年、マレー文化遺産センターとして改築されて今に至ります。王宮としては小さくシンプルですが風格のある建物で、中にはマレーの伝統的な工芸品やイスラムの歴史を語る資料などが展示されています。

サルタンの栄華をとどめる唯一の文化遺産、元王宮のイスタナ・カンポン・グラム。