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シンガポールのアートを30年間パトロネージュ

近年一層盛り上がるシンガポールのアートシーン。教育システムや施設の充実など、インフラの整備を推進するダイナミックな政府の後押しの一方で、過去30年もの間、一度も途切れることなくアートを支援してきた企業パトロンが存在します。

最終段階の審議の様子。審査員長の南洋芸術学院の学院長チュー・ティアムシュー氏(左から3番目)を中心に、福岡アジア美術館の学芸員黒田雷児氏(左から2番目)のほか、タイ、オーストラリアからも審査員が招聘され、国内外の有識者6名が審査にあたった。

企業によるパトロネージュの旗手として

年に一度、UOBグループが主宰する「UOBペインティング・オブ・ザ・イヤー・コンペティション(UOBPOY)」は、シンガポール国内で最大規模をもつ絵画コンペティション。UOB銀行に代表されるUOBグループは、1973年よりローカルのアーティスト達の作品を蒐集し、彼らの活動をサポートしてきました。その収蔵作品は約1,500点を超え、ラッフルズプレイスのUOBビルディングを始め、世界中に500ある支店にそれぞれ展示されています。また、UOBビルディングには、そのコレクションを定期的に入れ替えて展示する常設スペースがあります。

UOBPOYは、1982年より開催され、シンガポールでアートのキャリアを追求する人々を奨励し、優れた作品を認知し世に送り出すことを目的として創設されました。毎年海外と当地の有識者を審査員に迎え、1名の最高賞には賞金3万ドル、プラチナ賞5名には各1万ドルなどが贈られるほか、13才から18才までを対象とするユース(若手)部門を設置するなど、幅広い年齢層に対応しています。これまで、政府からの文化殊勲賞を受賞したゴー・ベンクワン、トーマス・イェオ、チュワ・エッケイ、アンソニー・プーンなどは、いずれもUOBPOY最高賞の受賞歴があります。

過去30年の間には経済金融危機などを経験しながらも、UOBグループは一貫してアートを奨励する姿勢を貫き、UOBPOYも継続されてきました。実際シンガポールにはほかにも企業主催の大型アートコンペティションがありましたが、諸々の理由で数年前に姿を消し、現在は、UOBPOYを残すのみです。

2011年の最高賞UOBPOY2011に輝いたゴン・ヤオミン氏の「MY DREAMLAND」。

ユース部門最優秀賞カミーユ・ルイ・ガルシア・バレテさんとその作品。

30周年を迎えたUOBPOY 2011

30周年にあたる今年は、去年から始まり2回目となったタイ、新たにマレーシアとインドネシアを加えた4ヵ国にて合計2,400点を超える作品を集めての開催となりました。シンガポールでは、800点を超える応募の中から、中国出身でPR保持者のゴン・ヤオミン氏が2度目の最高賞を獲得。ゴン氏は、中国画の技法を用い、シンガポールの現代的な風景を緻密に描いたその技巧とコンセプトが評価されました。その次のプラチナム賞には、3名が選ばれ、うち2名がユース部門からの受賞となりました。

シンガポール、日本、タイ、オーストラリアから招聘された計6名の審査員が今年の審査にあたりましたが、絞り込まれた作品の中から特に最高賞とプラチナム賞の選考が難航したといいます。また、ローカルの教育システムに近年登場した特別美術プログラムの履修生らがプラチナム賞や最優秀ユース部門賞を獲得するなど、突出した才能を持つ十代の学生が複数おり、新しい教育システムの成果が注目されました。

UOBPOYの受賞作品は、毎年一般公開される。今年の会場となったエスプラネード。

アートをグローバル都市創造へのカタリストに

UOBPOY2011の受賞作品は、毎年エスプラネードで展示され、上位受賞者のうち1名に、福岡アジア美術館に1ヵ月滞在するアーティスト・レジデンシー・プログラムへの参加資格が授与されます。滞在期間中、福岡や近郊の一般市民との交流を深め、制作活動や市民向けのワークショップなどを行います。参加者の将来のアート活動の一助となるほか、貴重な国際交流の機会となります。また、年間賞であるUOBPOYは、その時代を反映した公平なものであるよう募集条件などを毎年見直しており、継続性を重視した発展型のイニシアティブといえます。

シンガポールにおいて、アートを支援しコラボレートする企業や団体が年々増加していると言われる中、アートも多様化し、そのニーズはますます高まっています。企業とアート、そして社会の双方にメリットのある継続的なパトロネージュは、今後一層期待されているといえるでしょう。