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龍の化身「アロワナ」

アロワナという熱帯魚との初めての出会いは、ある中国系シンガポーリアンのお宅に招かれたときのことでした。広いエントランスに大きな水槽があり、錦鯉と同じくらいの大きさの観賞魚が一匹、ゆったりと泳いでいたのです。

一匹一匹色のコンビネーションが少しずつ違い、個性的なアロワナ。生きた化石とも呼ばれる

 

「熱帯魚の愛好家だったら、一度は飼ってみたいと思う魚なんです。最後に行き着くのはアロワナですね」と、その家の主は教えてくれました。「ドラゴン・フィッシュとも呼ばれていて、私たち中国人にとっては富と幸運を招く魚ですよ」と彼は目を細めていました。

流麗なフォルムと、灯りによって微妙に光沢や色が変化する鱗。その1枚1枚に細い筆で描かれたような縁取りがあり、無駄な動きのない、悠々とした泳ぎ方に威厳が感じられる。確かに「龍の化身」、あるいは「龍魚」と呼ぶに相応しい容姿を備えた魚だ、と強く印象に残りました。

1億年を生き抜いた古代魚

アロワナの歴史は地球上に恐竜が跋扈していた中生代、白亜紀まで遡ります。しかも1億年前から現在に至るまで、その姿形も生態もあまり変わっていません。シーラカンスやハイギョなどとともに古代魚と呼ばれています。進化しなかった、ということは、進化する必要のない、環境の変化に負けない生物とも言えます。

生息する地域は熱帯を中心にかなり広範にわたっています。体長1メートルにもおよぶシルバー・アロワナはアマゾン川の上流から下流まで、ペルーやブラジルの各地で見られますし、ブラック・アロワナもアマゾンの支流に生息しています。ただアジア・アロワナと同様、野生のブラック・アロワナは急速にその数を減らしているため、輸出規制が検討されています。

一方ノーザン・バラムンディとよばれるアロワナはオーストラリアやパプア・ニューギニアなど広い地域に見られますが、これは他のアロワナと違って性質が少し荒く、飼育の難しい種類だそうです。

そしてインドネシアやマレーシアの川で見られるのがアジア・アロワナ。体長60~70センチで白、黒、ゴールド、レッドなど色彩の美しさに特徴があります。ワシントン条約の絶滅危惧種に指定されていて、輸出入には許可書が必要になりますし、最近マイクロチップの埋め込みが義務付けられ、管理団体によってデータが保存されています。

突然変異的に生まれる黒いアロワナは珍重されているが、生まれつき目がないため、餌も口元まで運んであげるなど手がかかる。それだけに養殖場のスタッフみ んなから可愛がられていた。

アロワナ養殖場へ

養殖場のオーナーのホン氏(Mr. Hong、左)とスタッフ。ホン氏はレストランも運営するビジネスマン。

熱帯魚の展示会AQUARAMAのブースに展示されていたインペリアル・アロワナは、朱色の鱗がひときわ美しく、高値で取引されていた。

 

さてシンガポールの郊外リム・チュカンやチョア・チュカンのエリアには魚の養殖場が集まっており、アロワナ専門の養殖場もいくつかあると聞いて訪ねてみました。その名もドラゴンワナ(Dragonwana)は、もともとマレーシアでアロワナ養殖場を経営していましたが、近年シンガポールでも養殖を始めました。10個ほどある池で飼育しているアロワナは約1,200匹。もっとも高価なブルーダイヤモンド、クロス・バック(ゴールドとブルーの2種類)、人気のレッド、そしてゴールドの5種類を育てており、そのお値段は手ごろなものでも350Sドルくらい。数千ドルのアロワナも数多く飼育されています。今まで最高値を付けたのは、マレーシアの養殖場で生まれたアロワナだそうです。5,000匹に1匹しか生まれない白く光るパールのような鱗を持ったアロワナで、なんと3万米ドルという値段で引き取られていったそうです。ドラゴンワナでは昨年、やはり5,000匹に1匹しか出ない、と言われる真っ黒なアロワナが2匹生まれ、この2匹はオーナーの宝物として大事に飼育されています。

アロワナは比較的丈夫な熱帯魚で、最大7~8キロにもなる大型魚ですが、性質は穏やかで人に懐くということです。野生のものは最長50年も生きられますが、養殖場ではせいぜい30年。それでも魚としては寿命が長く、権力と繁栄の象徴として大切にされる理由のひとつでもあるでしょう。

水草のまわりを遊泳するアロワナの群れを見ていると、さながら竜宮城の世界に紛れ込んだように感じられます。1億年も前から悠然と泳ぎ続け、生命を繋いできた古代魚たち。きっと1億年後も同じように優雅な姿で泳ぎ続けているのでしょう。