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シンガポール発、世界のタイガービール

シンガポール国内外で広く愛されている国産ビールといえば、タイガービール。「What time is it?」ときかれれば、「Tiger Time!」と答えるCMのキャッチフレーズは、国民的に良く知られており、馴染みのある読者も多いかもしれません。

そのタイガービールのあれこれに迫ります。

70年以上もの歴史をもつタイガービール。その垂涎の黄金色に、「It’s Tiger Time!」

タイガービールの生い立ち

世界に名を馳せるタイガービール、その歴史は長く、戦前まで遡ります。「この地はきれいな水に恵まれているし、熱帯の暑さにはビールが合うはずだ」と、オランダのハイネケン社から派遣されたリサーチャーは、帰国後に社長へ報告、1930年にハイネケン社は、地元の大手飲料製造会社F&N(Fraser and Neave)社と合弁会社を設立する合意をとりつけました。ハイネケン社はビール醸造技術を、F&N社は生産工場の提供や販売ルートを活かすとして、ビール醸造会社マラヤン•ブリューワリーズが誕生したのです。その後、シンガポール初の国産ビール、タイガービールは1932年10月に登場しました。

タイガーというその名の由来にも時代を感じます。マラヤン•ブリューワリーズを設立するための2社の話し合いは、ラッフルズホテルで開催されました。当時、島の大半はジャングルで、野生の虎が棲息していました。ある時、一匹の虎がラッフルズホテル内のロングバーに迷い込み、ゲストの安全のために射殺されたという事件が会合の席で話題になり、「もし、そのタイガーがビールだったら、バーをいくら徘徊したって撃ち殺されることも無かったのに」、と誰かがつぶやいたといいます。そのことをきっかけに「タイガー」ビールと名付けられたのだとか。

1990年、工場の移転を機に、社名をアジア・パシフィック・ブリューワリーズ(APB)に変更し、世界中で愛されるタイガービールを生産するにふさわしい規模とブランドをアピールするに至りました。

工場見学の後、タイガービールアンバサダーことガイドによる詳しい説明を受けながらビールを試飲。

タイガービールのこだわり

APBは、アジアに7つの醸造工場をもち、イギリス、ヨーロッパ、アメリカ、ロシア、オーストラリアなど60ヵ国以上にタイガービールを出荷しています。アジア有数のプレミアムビールの名に相応しく、その高い品質は、数々の世界的なコンペティションでの受賞歴があります。

タイガービールは、ヨーロッパスタイルのラガービールとして、その輝くような黄金色、ミディアムボディーの味わいが特徴。APBは、常に最高級のビールの原料を世界中から入手しており、オーストラリア産のモルト、ドイツ産のホップ、そして発酵媒体のイーストはオランダ産を使用し、水はシンガポールの浄水を6回フィルターにかけて完全にクリーンな状態にしたものを使用します。また、シンガポールの生産工場は、最新型のフルオートメーションにより、1時間で4万本の缶ビール、1万8,000本の瓶ビールの製造能力があります。

世界一新鮮なタイガービールが飲める場所

ジュロンにあるAPBでは、工場見学ができるので、在星中に一度は訪れてみたいもの(事前予約、入場料要)。専門のガイドが、工場見学の間、ビールそのものの歴史から、シンガポールの工場で製造している6種類のビールについて説明します。ツアーの最後は、ヨーロッパのパブのような重厚なインテリアのバーエリアへ。タイガービールの他、現在シンガポールで生産しているアンカービール、バイロンビール、ABCビール、工場横にあるマイクロブリューワリーで専門家が手がけるアーキペラーゴビールなどが試飲できます。生産現場直結でどこよりもフレッシュなビールは、やはり格別。ご当地ギネスと呼ばれるABCビールもなかなか馴染みは薄いものの、黒ビール好きには好評です。「シンガポールのホーカーセンターなどに行くと、朝からこのABCビールに生卵をいれて飲んでいる中高年のシンガポール人に出くわすでしょう」というガイドの話も。肉体労働の前に精をつけるのが所以というそのレシピに驚きつつも、この土地に受け入れられ進化している様子を垣間みることもできるでしょう。

丁寧に焙煎されたモルト(麦芽)。一流の素材のみを使用する。

工場内部の様子。最新型のオートメーションが導入されている。