「金は天下の回り物」、現金は一日に何度も我々の手を介し、忙しなく財布を出入りします。何気なく目にしているシンガポールドル紙幣の図柄やデザインに織り込まれたストーリーを辿ります。
「肖像」シリーズ、1999年9月9日にローンチ
現在流通しているシンガポールの紙幣は、肖像シリーズと呼ばれ、ミレニアムに向けて発行されました。その前の旧紙幣は、シンガポール造幣局(BCCS)が設立された1967年以降、蘭シリーズ、鳥シリーズ、船シリーズがそれぞれ発行され、これが第4次紙幣となります。
肖像シリーズでは、$2、$5、$10、$50、$100、$1,000、$10,000札が発行されており、そのうち、$2、$5、$10札はプラスティック製ポリマー紙幣に変わっています。
シンガポールの紙幣は、世界で一番精巧とされるスイス紙幣の偽造防止法を手本にデザインされ、15にも及ぶ精巧な仕掛けを額面に施しています。例えば、額面の銀色のホログラムパッチは、額面数字がアニメーションする複雑なホログラムで、「キネグラム」という名称があります。また裏面にはセキュリティスレッドという銀色の点線が入っていますが、光に透かすと実際は一本の金属の線が紙に織り込まれており、公用語4言語でシンガポールと極小さい文字で書かれています。その他、透かしや紫外線に発光するインクが使用されています。肖像は、深刻凹版で詳細に描かれていますが、肖像をデザインに入れ込む理由のひとつは、人間の表情の細かさを偽造するのは特に難しく、一目見て違和感を感じやすいからなのだとか。
オーストラリアで開発されたポリマー紙幣は、透明な合成樹脂のフィルムに白いインクを印刷し不透明化したうえで、通常の印刷を行い、その上に流通しても磨耗しにくくする保護膜をコーティングしています。また特殊ホログラムを入れる部分は印刷をしないため、透けて見えます。生産コストはかかるものの、偽造しにくく耐久性が高いため、使用頻度が高くて寿命の短い低額紙幣に導入されています。
初代大統領のシンガポールへのビジョン
第4次紙幣の「肖像」は、ユソフ・ビン・イサークで、シンガポール独立前は国家元首として、また1965年の独立後は初代大統領として活躍しました。マレーシアのペラ出身で、子供の頃家族とともにシンガポールへ移住し、学業優秀、スポーツ万能の青年期を過ごします。植民地時代が終焉を迎える頃、当時低落していたマレー人コミュニティーの自立とプライドを取り戻すため、シンガポールでマレー語新聞「Utusan Melayu」を発行しました。大戦中は一時中断するも、戦後直ちに復刊させています。多民族・多文化が共生する国家となることこそが、シンガポールが繁栄するための道であると早くから気づき、あらゆる社会活動にも貢献していたことから、最初の国の象徴として選ばれたのです。そんな氏とその考え方が、シンガポール発展の青写真であり、今後も引き継がれるシンガポールの理想として紙幣に刻まれています。紙幣の裏を見ると、$2は教育、$5は緑豊かなガーデンシティ、$10は国民が愛するスポーツ、$50はシンガポールから生まれる芸術、$100は国の将来を背負う青年達、$1,000は国民のための強い政府、$10,000はバイオテクノロジーなど先進技術をテーマとしたデザインになっています。
外国から訪れる人々が最初に出会う国産品はお金といわれるほど、紙幣や貨幣は、その国の技術力や現状を示す最初の入り口とも考えられています。シンガポールの紙幣は、それが存分に反映されていると言えるでしょう。
入場料:大人 S$10、子供・シニア(60歳以上) S$6
開館時間:10:00〜20:00 (年中無休)