AsiaX

ラブ・シードこと、サガの実を拾い集める愉しみ

熱帯気候のシンガポールで出会う珍しい樹木や植物たち。その中でも、つやのある真っ赤な美しい実をならすサガの木ほど、あらゆるストーリーに恵まれたものはないでしょう。実を落とす季節になると、大木の下で親子連れなどが喜んで実を拾い集める姿が見られます。シンガポールでの思い出にと、その宝石のようなサガの実をビーズにして、手作りのジュエリーを作り、持ち帰る在星ご夫人も多いのだとか。

サガの実とその莢(さや)。莢がうず巻き状にはじけて実が押し出されている様子は、形そのものがアート作品のよう。

 

サガの木のあれこれ

サガの木は、成木になると高さ20メートルを越す大木となり、6ヵ月から8ヵ月の周期で実をつけるネムノキ科の落葉樹です。インドや東南アジア、中国南部の亜熱帯気候に分布し、日本では琉球地方で見る事ができます。サガの木は、アカシアに似た左右均等で楕円形の小さな葉をつけ、オレンジの花のような香りを放つ薄黄色の小花を無数に咲かせます。花が散ると、豆状の実がつき、熟して地面に落ちるころ、実は赤く、とても固い外殻になります。

シンガポールでは、一般的にサガの木と呼ばれますが、学術名をAdenanthera Pavoninaといい、日本名ではナンバンアカアズキ、 英名ではRed sandalwood tree(赤い白檀の木)、Coral pea(サンゴ豆)、Peacock flower fence(クジャク花の垣)とも呼ばれています。

サガという呼び名の由来は、アラビア語で金細工師を意味する言葉に通じるといいます。サガの実は、通常そのサイズや重さが一定していることから、以前は金の重さを量る分銅代りに使われていました。ちょうどサガの実4粒で約1グラムなんだそうです。海の貿易ルートのだた中にあったシンガポールですから、その呼び方が定着したのかもしれません。

サガの木は、今では街路樹の一種ですが、その種子、葉、木の幹など、人間にとって役に立つ存在として長い間重宝されてきました。メラネシアやポリネシアでは、実や葉を食用にし、特に実は、生ではなく、煎ってから皮を剥いて食べます。油分やタンパク質が豊富で大豆のような味がするのだとか。また、木の幹は、家具に使われたり、日に当たると徐々に赤紫の色に変わるため、インドではその色素を粉末にして、バラモン達が額に印をつける際に使ったりするそうです。 中国やインドなどでは、この種子や葉、根を薬用に使用し、炎症や、リュウマチ、頭痛などに効果があるとされています。また、マレーシアやインドネシアのコーヒーやスパイス、ゴムのプランテーションなどでは、労働者達が休息する木陰を作るために、成長の早いこの木を好んで植えたそうで、Nursing tree(労りの木)とも呼んでいるそうです。

サガの木から熟したサガの実が落ちて来る前の様子。サガの葉も小振りで愛らしい。

 

チャンギ空港第三ターミナルの到着ロビー手前にある巨大なサガの実の彫刻は圧巻。(クマリ・ナハッパン作、「SAGA」 2007年、ブロンズ製、220 x 220 x 300cm、写真:作者提供)

相思相愛の木の話

「紅豆生南国、春来发几枝、愿君多采撷、此物最相思。」唐・王維

多くの人は、この実を「ラブ・シード(愛の実)」と親しみを込めて呼びます。少しラインが緩んだハートの形にも似ていることから、それをたくさん集めて小瓶にしまい、告白代わりに好きな人にプレゼントするのだそうです。100粒、時には1000粒集めると思いが叶うという、おまじない的な存在でもあるようです。

ラブ・シードと呼ばれる所以をひも解くうちに、一編の漢詩に出会いました。中国では「海紅豆」あるいは「相思樹」と呼ばれ、 この唐の時代の漢詩の中で登場したことからも、愛情を代弁する役割を担ってきたことに歴史を感じます。若き詩人の王維が、美しい女性と川辺を散策していた時、ふとこの南国からの木に出くわし、木の下に、きらきらと輝く紅色の豆がたくさん落ちているのを見つけました。彼女に 「この美しい豆をたくさん拾ってしまっておいて下さい。私も、たくさん拾っておきましょう。この豆は昔から相思相愛のしるしと言い伝えられてきたのですから」と、王維が愛を告白した情景が伺い知れるようです。

シンガポール島内では、ボタニックガーデンやフォートカニングパーク、セント・アンドリュース教会、バルモラル・ロード、ニコルハイウェイ沿い、イーストコーストパークなどで、サガの木を見かける事ができます。また、チャンギ空港第三ターミナルには、巨大なサガの実の彫刻が置かれ、シンガポールを訪れる人の幸運を願うシンボルとして親しまれています。