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シンガポールに現存する名画座 「ザ・プロジェクター」

上映時間の掲示も昔の映画館のようなレトロな雰囲気。フロアにはカフェがあり、食事やビール、ワインも楽しめる。

上映時間の掲示も昔の映画館のようなレトロな雰囲気。フロアにはカフェがあり、食事やビール、ワインも楽しめる。

 

映画が好きな人にとっては、シンガポールはちょっと残念な都市かもしれません。確かに数多くのシネマコンプレックスがあり、話題作を見ることができます。しかし、なにか物足りない。日本にあるような、名画座やミニシアターと呼ばれる独自のこだわりで選んだ作品を上映する映画館がないのが残念、そう思う人は多いのではないでしょうか。そんな人にぜひ知ってほしいのが、ザ・プロジェクター。「Not Your Average Cinema」と標榜する通り、最新作を公開する封切映画館とは一味違うシンガポールの名画座です。

 

1970年代の歴史ある映画館が復活

ザ・プロジェクターを設立したのはシャロン・タンさんとカレン・タンさん姉妹。2人がアメリカやイギリスの大学に通っていた時、現地の名画座で映画を楽しんだ経験から、アイデアが生まれたそうです。
現在ザ・プロジェクターがあるゴールデンマイルタワー5階は、かつてゴールデン・シアターという映画館があったところ。1973年に開館したゴールデン・シアターは当時1,500席以上を擁するシンガポール最大の映画館でした。1970年代~80年代には中国語の映画で人気を博し、1990年代には成人向け映画館となり、その後、インドのボリウッド映画専門の映画館という歴史を経てきました。
ザ・プロジェクターとして正式にオープンしたのは今年1月1日。スタンリー・キューブリック監督の特集が組まれ、『2001年宇宙の旅』(1968年)、『シャイニング』(1980年)、『フルメタル・ジャケット』(1987年)、『ロリータ』(1962年)などが上映されました。
「これらの作品は、それまでDVDで観たことはあったとしても、やはり映画館の大きなスクリーンで観てみたいという人が多かったのだと思います。大変な反響がありました」とマーケティング担当のジェロム・チーさんは振り返ります。
ザ・プロジェクターで上映する作品は往年のハリウッドの名作、インディペンデント映画やフランス、イタリア、イラン、台湾といった多国籍の映画など多岐にわたります。また、コーエン兄弟やスティーブン・スピルバーグ監督作品の特集、史上最低の出来といわれながらカルト的な人気を誇る映画の上映など、名画座ならではの企画もあります。
「自分たちが選んだ作品を多くの人に観てもらえると、本当にうれしく思います。現在上映中の日本映画『私の男』も好評です。今後の計画として、鬼才デビッド・リンチ監督を特集して『イレイザーヘッド』『ブルーベルベット』『マルホランド・ドライブ』を上映する予定です」。
映画館にはリクエストを書ける小さな黒板があり、黒澤明監督作品や昔の話題作の名前が書かれていて、本当に映画が好きな人が集まってくる場所だと言えます。

上映後に観客が拍手 映画ファンに愛される名画座

先ごろザ・プロジェクターで日本でもヒットしたイタリア映画『ニュー・シネマ・パラダイス』や、アルフレッド・ヒッチコック監督のサスペンス『裏窓』を観た時、上映後に観客からの拍手が起こりました。いい映画を観ることができた喜びと、この映画館への感謝を表しているようでした。こうした点も、ほかの映画館とは違うかもしれません。
このように映画ファンに愛される一方で、名画座としての苦労もあります。「ニッチなマーケットをターゲットとしているので、娯楽超大作を上映して連日大入りという状況となることは難しい。実は以前にもシンガポールには名画座があったようですが、現在あるのは、おそらくザ・プロジェクターだけだと思います」とジェロムさん。さまざまな映画祭とのコラボレーションのアイデアもあり、8月にはシンガポールで開催された日本映画祭の参加作品『へブンズ・ストーリー』を上映。またライブなどのイベントも積極的に開催していくそうです。
知る人ぞ知る映画館といえるザ・プロジェクターですが、8月には通常の上映で初の売り切れを記録するなど、徐々にその認知度は高まってきています。シンガポールの名画座の灯を消さないためにも、映画ファンとしてザ・プロジェクターを盛り上げていきたいものです。

 

映写室にて、左からシャロン・タンさん、ジェロム・チーさん、映写技師のアズマン・サリンさん。

 

歴史を感じさせる館内。シアターは2つあり、一つは「グリーン・ルーム」(写真)、もう一つは「レッド・ルーム」という名前が付けられている。レッド・ルームはイベントスペースにもなっていて会社などの各種イベントにも利用可能。レッド・ルームの綴りは「REDRUM」でスティーブン・キング原作、スタンリー・キューブリック監督のホラー映画『シャイニング』に出てくる言葉にちなむ。その意味は「REDRUM」を逆から読むと……。

 

 

 

 

 

 

ザ・プロジェクターへはゴールデンマイルタワー入口右手にあるエレベーターで5階へ。なお、近くにあるゴールデンマイル・コンプレックスと間違えないように!

所在地、上映時間はウェブサイト、フェイスブックで確認を。

http://theprojector.sg

www.facebook.com/TheProjectorSG