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見た目も美味しさもインパクト大 魅惑のフィッシュヘッドカレー

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これぞフィッシュヘッドカレー。一度見たら忘れられないビジュアル。

チリクラブ、チキンライス、ラクサなど、シンガポールのご当地料理は数あれど、見た目のインパクトで他を圧倒しているのはご存知「フィッシュヘッドカレー」。大きな魚の頭がごろっと入ったビジュアルは、一度見たら忘れられない強烈な印象です。しかしよく考えると、「なぜ食べやすい身を使わないのか」といった当たり前の疑問が湧いてきます。魚の粗(あら)は美味しいと言われていますが、なぜここまで忠実に頭の原型を保つ必要があるのでしょうか。考えれば考えるほど不思議なこの料理のルーツを探るべく、フィッシュヘッドカレーの名店として名高い「Muthu’s Curry(ムトゥス・カリー)」を取材しました。

 

インドに行っても食べられない!
正真正銘シンガポール発のご当地料理

使われているスパイスの数々。15種類ものスパイスが秘伝の配合で混ぜ合わされている。

「フィッシュヘッドカレーの始まりは、1969年に中華料理に魚の頭が使われているのを見たムトゥスのオーナーが、南インドカレーの具材に使えるのではないかと思いついたことだよ」。そう語ってくれたのは、ムトゥス・カリーの現CEOヴィスヴァナース A.さん。彼によると、以前から華人が多く暮らすシンガポールでは魚の頭を使ったメニューが数多くあり、その様子を見たムトゥスのオーナーが、自分の故郷である南インドのカレーレシピを使って、魚の頭を使ったアレンジ料理ができないかと思いついたことが始まりとのことでした。ただ、フィッシュヘッドカレーの起源には諸説あり、魚市場で捨てられている魚の頭がもったいないとカレーに入れたのが始まりという説も。しかしどちらにも共通しているのは、シンガポールで生まれた料理であるということ。そのため、南インドに行ってもフィッシュヘッドカレーはメニューに見られないそうです。

 

 

美味しい食べ方や部位をご紹介
フィッシュヘッドカレーのあれこれ

魚の臭みを取るレモン水。魚の頭を1、2度漬けただけで臭みが取れるという。

ムトゥスでは主役の魚に「アンゴリ(Angoli)」というタイのようなローカルフィッシュを使っているとのこと。頭の部分だけを仕入れ、週に約1,200匹分ものフィッシュヘッドを使うとのことです。ちなみに「なぜ頭の原型を忠実にとどめるのか」という質問については「見た目がいいから」という非常に明快な答えが返ってきました。
スパイスにはターメリックやタマリンド、セリ科の植物「フェンネル」など15種類を独自に配合。そのバランスは教えていただけけませんでしたが、ムトゥスでは1969年の開店以来、スパイスの調合など、変わらぬ味を守り続けているとのこと。ただ、フィッシュヘッドカレーを食べた際に魚の臭みを感じないのはスパイスで消しているだけではなく、調理をする前にレモンとライムを加えた水に魚の頭を1、2度ひたして魚の臭みを取っているのだとか。
美味しい食べ方のコツは、主食にナンではなく白米をチョイスすること。フィッシュヘッドカレーは汁気が多く、スープに魚の旨味が染み出ているので、魚の身とカレースープをお米によく混ぜあわせて食べるのがよいそうです。ヴィスヴァナース A.さん曰く、頭の身はどこもジューシーで美味しいとのことですが、特におすすめなのが舌や目。ゼリー状で他の部分とは食感が異なり絶品とのことでした。

 

ギネス記録にもなっている
今や国を代表するソウルフード

シンガポールでは過去に、フィッシュヘッドカレーでギネス記録が樹立されたこともあります。2012年、ムトゥスを含むリトルインディア5軒のレストランが協力し、2,012匹分のフィッシュヘッドカレーを一度にサーブしました。この記録は2015年8月現在まで破られていません。ギネス記録の食材としてフィッシュヘッドカレーが選ばれるあたり、国を代表する料理として認知されている証拠ではないでしょうか。多文化が共存する土地柄だからこそ生まれたご当地料理が多いシンガポール。その昔偶然にして生まれた料理が時を経て人々に愛されながら独自の発展を遂げ、ソウルフードとしての地位を築き上げた好例といえるでしょう。