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ビルマの仏教文化を伝える「マハ・ササナ・ラムシ寺院」

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ローカル色豊かなバレスティア・ロードを歩いてみると、古い屋台や食堂が数多く連なり、国際化してゆくシンガポールの都会的な風景とは趣きが異なります。大通りから外れて小さな通りに入ってみると、そこにはアクヤブ(Akyab)、アヴァ(Ava)、イラワディ(Irrawaddy)、マンダレー(Mandalay)、ミンブー(Minbu)、ペグー(Pegu)、ラングーン(Rangoon)など中国語やマレー語の響きではない名前が目につきます。ミャンマーの街や川、港の名前を冠した通りがたくさんあるのです。そしてバレスティアの裏通りタイ・ジン・ロード(Tai Gin Road)の孫文記念館の隣には、金の塔パゴダが天に向かって伸びている、美しいお寺があります。有名なビルマの仏教寺院マハ・ササナ・ラムシ寺院(Maha Sasana Ramsi Burmese Buddhist Temple) です。

 

マンダレーで創られた大理石の仏像

この寺院が建立されたのは1878年のことで、当時はインド人街キンタ・ロードにあったそうです。1907年にビルマ人の医者が寺院の管理を任されることになり、ミャンマーの北部マンダレーに行って10トンにも及ぶ大理石を仕入れ、これを現地で仏像として彫刻させました。完成した仏像は11フィートもの高さを誇る立派なもので1925年、シンガポールのササナ寺院に運ばれました。寺院がバレスティアに移動したのはずっと後の1991年のこと。この地域にはビルマから移住してきた人々が多かったからなのでしょう。

 

ビルマ人建築家のアドバイスによって屋根には祖国から運ばれた木の彫刻が施され、金のパゴダが載せられました。入り口では伝説の動物の彫像が両側に待機しており、信徒たちを迎えてくれます。この動物は象のような牙と、馬のような耳と蹄とを持ち、鹿のような枝角と鳥のような翼、そして鯉のような鱗と尾を持つとされています。階段の前で靴を脱ぎ、段上で線香を点します。そしていよいよ本堂へ。

 

奥の方の壁を背に立派な仏像が鎮座しています。後ろの壁には金箔が張られ、天井からはシャンデリアが煌々と光を照らす中、仏像は跪く人々を優しく見守っています。仏像の周りにはたくさんの花が添えられ、蝋燭の火が点されていて、厳かながら華やかな雰囲気も感じられます。そして脇には僧侶が控えており、希望する信者にはお祓いをしたり、手首にお守りを巻いてくれたりしています。

 

2階の回廊にも小さな仏像があり、3階は本堂と同じ広さのフロアに金箔の仏像があって、豪華な創りに見とれてしまいます。後ろの壁にはマンダレーから仏像が運ばれたり、寺院が建築される様子が描かれています。天井や柱に施された彫刻、金を塗った模様など寺院の中は芸術作品の宝庫です。

 

この寺院では一年を通してさまざまな祭事が行われますが、中でもミャンマーのお正月と言われる水掛け祭―ティンガン(Tingyan)は盛大なもの。4月半ばに行われますが、祖国に負けず劣らず賑やかなイベントです。水掛け祭の目的は前年の汚れや過去の災いを水で流すこと。タイやカンボジアなど広い地域で行われています。またこの寺院では毎週水曜日、大勢の信者が訪れて花や水、蓮の形の蝋燭を供えるのが習慣となっています。

 

仏陀ササナに教えを請う

現在シンガポールには10万人を超えるミャンマー人が暮らしているといいます。祖国を離れて生活する人々にとって、故郷の伝統を保つ寺院の存在は心のよりどころになっているに違いありません。仏教寺院の果たす役割は何でしょうか。僧侶がいる場所であり、仏像を祀る場所。信者たちが祈りを捧げたり、親戚や友人と会合するところでもあります。結婚式や結婚披露宴を行うこともありますし、お祭りの中心にもなります。しかしさらに仏教寺院の重要な役目は、人々がその精神性を高めるきっかけを作ることだと、ササナ寺院のニュースレターには書いてありました。精神性―スピリチュアリティー(Spirituality)を高めるというのは、煩悩を取り去って俗世の苦悩から解放されること。そのために寺院には僧侶がいて、ササナの教えを伝える。寺院の外観、仏像の姿形は国や地域によって、あるいは宗派によって異なりますが、基本的な考え方は共通しています。仏像も僧侶も、一般の信者も国境を越え、時代を超えてなお、仏陀の教えを引継いでゆくのでしょう。