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官民一体のアートコミュニティー「グッドマンアーツセンター」

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世界のアート地図にその存在を確実に示すほど、シンガポールの国を挙げてのアートへの取り組みは、近年大きな成果をもたらしています。世界水準のインフラ整備がほぼ整い、今後は、シンガポール国内にある優れたアートの才能を育成し、国民がよりアートに親しむための環境づくりの支援に国として注力していくとされています。その取り組みのひとつとして、2011年からシンガポール芸術庁(NAC)のイニシアチブで始動したグッドマンアーツセンター(GAC、Goodman Arts Centre)があります。

 

アートコミュニティー支援のパイロットプロジェクト

GACは、ラサール美術学校の創設者故ブラザー・ジョセフ・マクナーリが、1984年に最初の校舎を創設したマウントバッテンロード沿いの場所にあります。学校跡の3.08ヘクタールの広大な土地との建物がそのままGACとなりました(ラサール美術学校は、2007年にミドルストリート近くへ移設)。

 

現在、各方面で活躍するアーティストやクリエーター、伝統芸能の団体など46のテナントを抱え、大小の貸しスタジオ、ギャラリー、シアター、また大きなオペラなどにも対応できる大型のリハーサルスタジオなど計35のスペースを擁しています。また、特筆すべきは、NACのオフィスも同じ敷地内にあるということ。シンガポールにおいて、様々なアート関連の活動上のルールや、助成金を采配するNACが、アーティスト達のそば近くにあるということは、彼らにとって好都合であり、アートをシンガポール社会へ浸透させたいNACにとっても、実状にあった仕組みづくりがし易くなるなど双方に有益な環境といえます。GACでは、定期的に開催される展覧会やパフォーマンスの他、年に数回オープンハウスを企画し、一般の人々がアーティストのスタジオを訪れたり、陶芸や絵画などのアクティビティーに参加できる機会を設けるなど、着実な活動が行われています。

 

「名付けるなら、”Artifisher”かな」というジャスティン・リーさんのスタジオ。アートを通して自己発見するクリエイティブシンキングのクラスも開催。
www.justinleeck.com
LA LIBRERIAのスタジオ。平島枝理子さん自身の制作活動のほか、 基本的な製本を教えるワークショップ、アーティストブック制作のアドバイス、アーティストブックの委託販売などを行う。
www.lalibreria.com.sg

グッドマンセラミックスタジオ。
陶芸家、一般の人を問わず、フル装備を持つスタジオを利用できる。
陶芸クラスも随時開催。
www.goodmanceramicstudio.com

 

アートの可能性と新たなコラボレーションに注目

4階建ての旧校舎の建物には、カラフルなドアのあるスタジオが多数あり、その向こうで日々個性的な活動が行われています。GACのテナントが皆アーティストやクリエーターですから、コミュイティーの中にお互いを刺激しあいながら、何か新しいものが生まれ出る空気が常にあります。テナントの1人である、LA LIBRERIAを主宰するブック・アーティストの平島枝理子さんは、GACの環境について、「様々な分野の方が入っていて偏らない枠組みが気に入っています。テナントは、それぞれの分野で経験を積まれた方々なので、将来何らかの形でコラボレーションができればと楽しみにしています」と語ります。また、シンガポールの若手アーティストを代表する1人として知られるジャスティン・リーさんも、スタジオで2012年5月にシンガポール美術館にて展示が予定されている大型の作品制作を行いながら、「GACには、シアター、映像、広告、伝統的な中国オペラ、書籍、マンガにいたるまで多様な分野に携わるクリエイティブなテナントがいて、彼らと交流できることが一番のメリットです」とのこと。加えて、「分野の垣根を越えてもスムースに仕事や企画が運ぶよう、NACに相談窓口か、アドバイサリースタッフがいると助かります」と平島さん。「今後は、個々のスタジオに洗い場を設置するなどテナントのニーズにあった施設の整備と、GACで開催されるアート関連のイベントが増えるといいですね」と、リーさんも期待をこめます。

 

国内でのアーティストの育成やコミュニティーの成長を促すために、継続性のある仕組みづくりのパイロットプロジェクトとしても位置づけられているGAC。今後生まれるコラボレーションが楽しみなのと同時に、他のアーティスト達のスタジオ不足も解決すべく、新たなセンターの誕生へ繋がることを願ってやみません。