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中国伝統の音色・二胡を星の国で奏でる人々

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中国の伝統音楽に欠かせない楽器のひとつ、二胡。シンガポールではアーフー(erhu)の名で親しまれています。

 

二胡は、紀元前のインドで生まれ、アラビア半島へ広まった弦楽器「ラバーブ」(rabab)が起源と言われています。やがて、三弦のものが東南アジアから中国南部を経て琉球や日本へ、二弦のものは中央アジアからシルクロードを経て唐代の中国へと伝わりました。元代に今の二胡に近い楽器ができ、明代から清代にかけて中国全土に広まりました。各地の演劇で演奏される音楽などの特徴に合せて発展した中で、江南地方で発展した「南胡」が、のちに「二胡」と呼ばれるようになりました。

 

シンガポールで楽しむ二胡

中華系の人々が多いシンガポールでも二胡に親しむ人は多く、自ら演奏して楽しむ人、二胡の音色に魅せられてシンガポール・チャイニーズ・オーケストラによる生の演奏を聴きに足を運ぶ人々などがいます。

 

ブラス・バサ・コンプレックス内の音楽教室「GTAR Music Centre」で二胡を教えるエリック・ポー(Eric Poh)さんが二胡を始めたきっかけは、学校のクラブ活動。「運動は嫌いだったし、二胡は二弦で簡単そうに見えたから」選んだとのことですが、「弾いてみたら全然簡単じゃなくて(笑)。きれいな音を出せるまで随分練習しました。ちゃんと弾けるようになると、演奏するのが楽しくなって」。その後ずっと二胡を続けて、4年前からはフルタイムの二胡講師として活動しています。

 

ポーさんの生徒には、小さい子供たちから趣味として楽しむ大人まで、幅広い年代の人々がいます。「少し前までは、二胡を好むのは年配者というイメージがありました。近年シンガポール政府が芸術教育にも力を入れるようになったことが功を奏して、二胡を始める子供たちが増えているんです。良い傾向ですね」。

 

ポーさんと同じ教室で二胡を教えているチン・イェンチューン(Chin Yen Choong)さんは、シンガポール在住の日本人女性による二胡アンサンブル「南響楽団」も指導しています。「2年ほど前に活動を始めたアンサンブルで、演奏力の高いメンバーが多く在籍しています。みな練習熱心ですね」。ただし、シンガポールならではの悩みも。「ご主人の駐在で滞在している方が多く、設立当時のメンバーでも既に日本へ帰国したり他国へ異動になった方もいて、最近メンバーが減っているんです」。しかし、悪いことばかりでもないようです。「東京やその近郊に帰ったメンバーが、関東支部を立ち上げて活動を始めました。いつか合同演奏会を開きたいですね」。

 

二胡の新たな可能性を引き出す

シンガポール出身の若手アーティスト、テイ・クーウェイ(Tay Kewei)さんは、南洋理工大学を卒業後、2006年に地元テレビ局のコンテストで最終審査に残ったことをきっかけに本格的に音楽の道へ。台湾の人気歌手アーメイ(A-mei)やデビット・タオ(David Tao)などのコーラスとしてアジア各国でのツアーに参加し、2010年にはアルバム『Come Closer with…Kewei』でデビュー。今年2枚目のアルバム『Fallin』をリリースし、シンガポールを拠点に香港、マレーシア、台湾でも活動しています。

 

アコースティックなサウンドにポップス、ジャズ、ボサノバなどさまざまな要素が入っている彼女の音楽ですが、どのアルバムにも二胡を演奏した曲が収録されています。「父が二胡を教えていたので、小さい頃から練習していました。でも、練習が厳しくて、大嫌いでした(笑)」。一度は二胡から離れたものの、大学時代に友達と音楽活動を始め、再び二胡を手にするように。ジャズやポップスのサウンドに乗せて演奏することもあります。「今では、父にもとても感謝しています」。

 

歌はもちろん作詞・作曲も手がけ、楽器は二胡に加えてピアノやギター、ウクレレもこなし、日本人アーティストの歌を日本語歌詞のままでカバーするなど多才な彼女ですが、「二胡は私の大きな強みになっています。これからも様々なスタイルの音楽と二胡の音色を組み合わせて、皆さんにも楽しんでいただきたいですね」。

 

長い歴史を持つ楽器の可能性は、この地でこれからも様々な人の手によって広げられていくことでしょう。