初代は野菜作り、2代目と3代目は花作り
MRTチョア・チュカン駅から車で15分ほどの場所に5万4,000平米のトー・ガーデンがあり、ここには現在数百種類の蘭の花が育成されており、その数は年々増え続けています。この蘭園から島内のお花屋さんへと運ばれるほか、海外にも数多くの蘭が輸出されます。熱帯雨林の中に昔から咲き続けていた蘭が、シンガポールで人工的に栽培されるようになったのは、この国が独立したころのこと。
トー家では40数年前、初代が始めた野菜畑の片隅で2代目が花作りを始めました。まだシンガポールが発展途上にあり、多くの人々が貧しかった時代でした。初代は、人々に食糧を供給することが自分の役目だと考えていたため、蘭の花の栽培には積極的ではありませんでした。それでも細々と花作りは続けられ、1980年代くらいから蘭の花の需要が大きく伸びて異種配合で生まれたユニークなものには高額の値段が付くようになったのです。
異種配合で誕生する個性的な蘭の数々
今や2万種以上とも言われる蘭の中で、根強い人気があるのはデンドロビューム、中でも白地に淡い紫がかったパステル・ピンクの花弁が美しい、ルシアン・ピンク(Lucian Pink)だそうです。“トー・ピンク”と経営者一家の名前でも呼ばれるこの花は日本への出荷数でもダントツです。最近シンガポールでは陽の光が当たると金色に輝く黄色も人気上昇中で、S.G.H.(Singapore General Hospital、病院の名前)やシャングリラと命名された黄色の蘭もよく売れているようです。
このパープル・ピンクと黄色という二大人気カラーを1枚の花弁の中に融合させているのは忍者(Ninja)という名前の花です。もともとタイから運ばれたもので、名前の由来は不明ですが、鮮やかな黄色地の花弁に揺らめく浮き彫りのような紫色が、不思議な存在感を醸し出しています。
異種配合ではこうしてそれぞれの種類の長所を持ち合わせて生まれるケースが多いのですが、予想通りの成果が得られるとは限りません。しかも新しい種類の蘭が花をつけるまでに1年半から2年、またその花を大量に栽培して出荷する段階までには5年から7年かかります。時間をかけ、世話を焼き、なによりも愛情を注ぐことが必要なのです。
こうして生まれ育った色とりどりの蘭が咲き乱れるトー・ガーデン。そのカラフルで賑やかな光景は、人種の坩堝シンガポールを映す鏡のようでもあります。