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28年ぶりの新硬貨、国のランドマークをデザイン

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真新しい輝きを放つ第3シリーズの硬貨が世に出て3ヵ月余。新旧2種類の硬貨が混在する日常に慣れつつも、新硬貨を手に取るたびに新しい発見があります。

 

 

第3シリーズ硬貨のデザイン

シンガポールの硬貨は、独立後1967年に発行された第1シリーズでは「海洋生物」が、1987年に発行された第2シリーズでは地域特有の「植物」がテーマのデザインでした。今年6月25日に流通開始となった第3シリーズの硬貨は、「国のシンボルとランドマーク」がテーマの5種類。1ドルには国を代表するシンボル「マーライオン」、50セントには国の発展を支えた「シンガポール港」、20セントには数々のランキングで世界一と評される「チャンギ国際空港」、10セントには80%以上の国民が住む公営住宅「HDB」、5セントには通称ドリアンと呼ばれる総合芸術施設「エスプラネード」がデザインされています。

 

新硬貨が発行されることになった背景には、時代に合ったデザインで老若男女の認知度を高めることや、技術革新による高い偽造防止技術を採用すること、さらに製造コストを削減するという目的があります。シンガポール金融庁によれば、実際に35〜40%のコストが削減できているとのこと。デザインは官民からなる選考委員会に検討されました。採用されなかったデザイン候補には、コロニアル建築(より発展的なイメージの方が良いということで選外)、大統領官邸イスタナ(誰もが容易に識別できるデザイン化が難しいという理由で選外)のほか、昨年オープンしたばかりの植物園「ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ」も候補に上がりましたが、選考当時は未完成だったために採用されなかったとか。選考時期が数年後であれば現在世界的に知られるカジノ総合リゾート施設「マリーナベイ・サンズ」などマリーナベイ地区の建築群が採用されていたかもしれません。

 

 

硬貨の裏側には引き続きシンガポールの紋章が中央に配置され、周辺にはシンガポールの4つの公用語(英語、マレー語、中国語、タミール語)で国名が刻まれています。近隣各国との往来が多いシンガポールでは、よく似た形状の外国の硬貨が混ざってしまうことも多いのですが、硬貨の裏側を見れば即座に判別可能です。

 

貨幣から歴史を学び、時代を映す新硬貨を見る

昔から交易の重要拠点だったシンガポールに流通した通貨の歴史は非常に興味深く、造幣局がチャイナタウンで運営する「シンガポール貨幣博物館(Singapore Coins and Notes Museum)」を訪ねると、この地で使用されてきた通貨から様々な歴史を紐解くことができます。物々交換に使用された貝や米、塩や陶器などの展示に始まり、スペインやオランダ、中国との交易が盛んになり相手国の貨幣での取引が行われていたころの各国の貨幣の展示、さらにイギリス植民地統治時代の貿易通貨としてイギリスの貨幣の展示が続きます。また、第二次世界大戦中の日本軍占領下に大量に発行された軍票(バナナが描かれた紙幣から、通称「バナナマネー」)もあり、戦後一夜にして紙クズになってしまったことも紹介されています。独立以降、国の威信をかけて発行された歴代のカラフルな紙幣や第1〜第3シリーズの硬貨も全て展示されています。

 

 

シンガポール造幣局は記念硬貨の鋳造のような特殊技術に優れていて、外国の記念硬貨の鋳造も委託されている上、数多くの受賞歴を誇っています。ブータン国王の御成婚を祝う記念硬貨や仏陀(ブッダ)の記念硬貨シリーズは特に有名で、その他にも、マカオ、タイ、カンボジアの記念硬貨も鋳造しています。貨幣博物館スタッフによれば、日本人には鮮やかな色合いの蘭の花シリーズが人気だそうですが、これもまたシンガポールにあるカラー印刷技術が光る記念硬貨です。

 

 

シンガポールの歴史とともに変化してきた通貨や、世界的に注目される国際都市として生み出す様々な記念硬貨も、この国の多様性を象徴して輝いているようです。